254
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
11:27:34.42 ID:5f140KfBO
(´д`;)「すみません、もううちのお部屋は全部塞がっていて…お泊め出来る余裕が無いんです」
(´_J`;)「いやー、うちも空きが無くてねぇ…商売繁盛なのは嬉しいんだが」
(∵)「私の所は荒巻スカルチノフ様が全部屋を借り切りしておられまして…」
ハレルジャ・ヴィップレッジ内の三軒の宿屋は一様に同じ返事を返して来た。
(;^Д^)「弱ったな…」
三軒全てを周り終えたプギャは、自分の後にずらりと並ぶ、黒いジャケットを着込んだ男達に困ったような視線を向けた。
257
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
11:41:30.56 ID:5f140KfBO
その数、ざっと30人。
荒巻スカルチノフの自家用ヘリコプターによって今日未明に新たに運ばれた『トニー=ブラウンを捜し隊』の面々である。
彼等は到着するなり朝から探索を始め、そして今、休息を取るために村に戻って来たのだった。
(´・ω・`)「どうしますかねぇ、宿に入りきらなかった人達は」
( ^Д^)「…流石に村民宅に泊めさせるという手段も取れぬしな」
此処には居ないもの、入れ違いにまだ20余人の『精鋭部隊』がハレルジャ・ヴィップレッジの周辺を探索しているはずだった。そして、村の宿屋はほぼ彼等で埋まってしまっている。
他にこんな大所帯を泊める場所など、無い。
「空きが無いのか?」
プギャとショボンの元に、黒ジャケットの男が話し掛けてきた。
( ^Д^)「ああ、あんたは…」
259
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
11:52:30.67 ID:5f140KfBO
「ああ、後続の捜索隊のうち、第一班を束ねさせてもらっている」
隆々とした筋肉を覆うツナギの上にジャケットを軽く羽織っただけのその男は、ゆっくりとプギャ達の方へ近づいてくる。
ドキ…ン…!
(´・ω・`)「・・!?」
ショボンはその男の顔を見るなり、無性に胸がときめくのを感じた。
なんだか切なくて甘い痺れが心臓辺りをきゅっと締め付けている。
(´・ω・`)(どうしたんだ…私は…)
この男から目が離せない――
ショボンの熱いまでの視線を感じて男が振り返った。そしておもむろにツナギのファスナーを下ろして行く。
(*´・ω・`*)「!!!」
261
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
12:00:42.60 ID:5f140KfBO
や ら な い か ?
r ィ=ゝ-、-、、r=-ヮォ<
! | リ|} |}
{ | ′ |}
レ-、{∠ニ==ァ 、==ニゞ
!∩}""旬゙` /"旬`f^|
|((゙ ` ̄"" f:` ̄‖|
ヽヽ {: |リ
}iーi ^ r" i
!| ヽ ー===- /
} \ ー‐ イ
‖ ヽ、_!_/|\
‖ i :::ト、 ヽ
(*´・ω・`*)「うほっ!いいおと…」
(;^Д^)「プギャああああああああああああ!!!!!!」
ズガアッ!!
ふらふらと男に寄って行こうとしたショボンを、プギャが雄叫びと共に放った昇竜拳が3メートルほど空高く跳ね上げた。
(#)・ω・`)「ちょwwwwwてめぇ何すんだいきなりwwwwww」
(;^Д^)「い、いや…ホモアレルギーが発動してな…。ほら、うちの娘が腐女子だから」
264
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
12:10:01.33 ID:5f140KfBO
(´・ω・`)「腐女子かよwwwwww」
(;^Д^)「と、とにかくお前の貞操が守れたんだからいいじゃないか」
……チッ。
ああだこうだと揉み合いながらごねる二人を見ながら、男が舌打ちするのを聞くと控えている第一班の男達は恐ろしそうに尻を押さえた。
阿部、と名乗った男は気を取り直したように頭を振る。
阿部「宿の件はいい。その辺りで野宿でもさせてもらう」
( ^Д^)「野宿……それで構わんのか?」
阿部「青姦は慣れているしな」
( ^Д^)「聞いてねーよwwwwwww」
(*´・ω・`*)「……」
(;^Д^)「お前もいちいち頬を染めんなwwwwwwww」
266
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
12:21:25.84 ID:5f140KfBO
ゴホン、と薔薇色の空気を払拭するべくわざとらしい咳払いと共にプギャが真顔で阿部を見る。
阿部「やらな( ^Д^)「やりません」
(´・ω・`)「もったいない」
(#^Д^)「いい加減黙っとけ。野宿と言う事は了解した。好きにしてくれ。…ただ、あれは少し何とかならんものかね?」
プギャは眉間に皺を寄せつつ村の入口の方向を指す。平和な風景に似つかわしくない銃を装備した男達とバリケードが、豆粒ほどに遠く見えた。
( ^Д^)「いくらトニー様をこの村にお引き止めするための設置とは言え…神に銃を向けるなどとんでもない事だとは思わんのか?!」
267
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
12:27:32.14 ID:5f140KfBO
阿部は表情を変えずに肩を竦める。
阿部「あれは俺の知る所じゃあない。オーナーの荒巻氏の命じられた事さ。文句があるならそっちに掛け合ってくれ」
(;^Д^)「ううむ…」
阿部「俺達は野宿の準備をさせて貰うからこれで失礼する。なにかあったらこれで」
と、阿部はショボンにトランシーバーを放り投げた。
阿部「連絡してくれれば直ぐに駆け付けよう。じゃあな」
(*´・ω・`*)「………」
プギャとショボンに見送られて、阿部を始めとする後続の捜索隊隊員らはぞろぞろと歩いて行ってしまった。
269
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
12:36:11.63 ID:5f140KfBO
長い溜め息。
(;^Д^)「……うッ!」
スッ!
プギャが腹を押さえると同時に、ショボンが何も言わずにスーツのポケットから胃腸薬を取り出した。
( ^Д^)「…たまには役に立つんだな」
(´・ω・`)「たまには有能秘書って設定を活かそうと思いましてね」
( ^Д^)「……その有能秘書の敏腕さで、荒巻のジジィを説き伏せて来てくれんか?」
(´・ω・`)「ぬるぽ」
( ^Д^)「ガッ!」
(´・ω・`)「むりぽ」
(; ^Д^)「ガ…ッじゃない!無し!今の無し!」
ショボンはお馴染みの分厚いファイルで自分の肩をとんとんと叩きながら、諦めたように首を横振る。
270
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
12:45:23.13 ID:5f140KfBO
(´・ω・`)「あの爺さんは言っても無駄っすよ。説得なんか、野村沙千代に良妻になれって言い聞かせるようなもんですね」
( ^Д^)「……まあ、分かっていた事だがな」
プギャも諦めきった口調で、荒巻が使用する宿屋『スペシャルヴィッパー』の二階窓を見上げる。
( ^Д^)「人手を増やしてくれるのは有り難いが、神に銃を向けるなど…神罰が下らんかどうか不安で仕方ない」
(´・ω・`)「まあ、いきなり発砲なんて幾ら何でもしないでしょうけどね。精鋭隊ってぐらいだから、軍や傭兵上がりの人達が多いんでしょう。銃はステータスみたいなものじゃないんですか」
( ^Д^)「…楽天的だな、相変わらず」
272
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
12:55:32.27 ID:5f140KfBO
プギャの一言に、ショボンは眉を下げて舌を出した。その表情は多少疲れを帯びている。
(´・ω・`)「楽天家を気取らないとやっていけないんですよ、この状況じゃね」
( ^Д^)「……ふ、確かにな」
プギャも同じような面持ちで、遠い目をしながら笑った。
それを横目にショボンはポケットを漁り、ウィダーインゼリーを取り出すと何食わぬ顔で十秒チャージ二時間キープを始める。
(´・ω・`)「ぼやぼやしてなんかいられませんよ。借金取りと悲鳴は待ってはくれませんからね」
275
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
13:07:15.78 ID:5f140KfBO
プギャが重々しく頷いて、寝不足で腫れぼったい瞼を押さえる。
( ^Д^)「分かっとるわい…とりあえずワシもいい加減昼食を取りたいんだ。何事も無い今のうちに家に戻って――
ッッッきゃああああああああああああああああああああああッッッ!!!!
(;^Д^)(;´・ω・`)「・・・・」
バタバタバタッ!
村中に響き渡るような甲高い悲鳴に硬直する二人の元に、慌ただしくシグマグチが走り寄って来た。
(`Σ´;)「そ、村長大変だ!!今度は囲戸が!囲戸の水が一気に干上がっちまってて!!」
いやああああああらめえぇぇぇえええぇえッ!!!!
バタバタバタバタッ!
(゚<_゚;)「ショボンさん大変だ!!!マターリさんとこの、トニー様の力を受けていた牛達が倒れて……!!!」
276
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
13:16:42.53 ID:5f140KfBO
村長様!!
ショボンさん!!
こちらへ来て下さい!!
いえ、こっちが先です!!ぬるぽ!!
村長!!
ショボちゃん!!
村長!!!
ガッ!!!!
(;^Д^)(´・ω・`;)「………」
パニック状態の村人達は、二人が出て行かないと納得しない。プギャとショボンは力無く顔を見合わせる。
それからお互い無言で肩を叩き合い、それぞれ悲鳴の出元へともう何度目かのダッシュを始めた。
(´・ω・`;)「飲んでて良かったウィダーイン!今行きますから皆さん落ち着かれてください!!大丈夫ですから〜」
(;^Д^)「今行く!今行くから落ち着け皆の者ーーーーー!!!!!」
借金取りと悲鳴と、トニー=ブラウン不在による災厄は人の都合など待ってはくれないのである。
282
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
13:59:48.59 ID:5f140KfBO
村の西南を流れるアナリスク川周辺に、手際良く携帯用テントを張っていく阿部達の元に一人の男が駆け寄って来た。
(´_ゝ`)「阿部!」
阿部「流石兄者か」
(´_ゝ`)「ご苦労さんだったな。呼び掛けておいて、なかなか覗きに来れずにすまなかった」
阿部「気にするな。先ほど朝の部の見回りを終えたばかりだ。今から休息を取って、夜の見回りに備えるところさ」
阿部達『トニー=ブラウンを捜索し隊』は、大きく分けて先発隊と後続隊に分かれている。
先に村に到着した先発隊がトニーを捜している間は後続隊が休息を取り、先発隊が疲れて帰って来ると後続隊が入れ違いに捜索に励むと言う、実に効率的なシステムだ。
284
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
14:21:19.54 ID:5f140KfBO
で、今は後続隊の休憩時間と言う訳だ。
阿部「しかし本当に久しぶりだな。お前とは本当は酒の席で再会したかったが」
(´_ゝ`)「いや、お前と飲むと俺の菊座が危機に陥るやもしれんからな。丁重に断る」
阿部「…チッ」
(´_ゝ`)「相変わらずか…」
兄者が苦笑気味ながら懐かしそうに言う。
二人は、いや、正確には弟者を含めた三人は、過去、世界でもトップクラスのSP養成学校『ボラギノール』の特待生クラスで共に学んだ仲であった。
そのコネクションを使って捜索隊を呼びかけ、今に至るという訳である。
286
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
14:34:15.53 ID:5f140KfBO
阿部「弟者はどうした?」
(´_ゝ`)「ああ、悲鳴が起こる度にあちこち飛び回っているさ。昨日は俺が動いたからな、今日はあいつに任せている」
さらさら流れる小川を見つめながら、兄者は気楽そうに肩を回して阿部に朗らかに笑いかけた。
(´_ゝ`)「俺は挨拶ついでに野宿組を冷やかしに来ただけだ」
阿部「帰れよ」
(´_ゝ`)「帰るさ」
「――阿部隊長!」
割り込んで来た声に阿部が振り向く。
阿部「どうした。テントは張り終えたか?」
(・J・)「はい!ですが少し困った事が…」
阿部「なんだ」
(・J・)「先ほど点呼を取ったところ分かったんですが、コナソの奴が居ないんです」
289
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
14:47:00.39 ID:5f140KfBO
阿部「コナソが?」
阿部が眉根をきつく寄せた。
(・J・)「ちょっと目を放している隙に…トイレか何かならいいんですが、“あそこ”に向かっている可能性も……」
(´_ゝ`)「あそことは?」
口を挟む兄者に、阿部が簡潔に答える。
阿部「禁地、『魔の洞窟』だ」
(;´_ゝ`)「あそこか…」
兄者の表情が曇る。
所狭しとハレルジャ近辺を駆け回る捜索隊の面々が、プギャの口から「絶対に近づくな」と命じられた場所があった。
そこが、『魔の洞窟』である。
292
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
14:59:47.85 ID:5f140KfBO
(´_ゝ`)「入った者は誰一人生きては帰って来ない…もし生きて帰れても廃人同様になってやがては死んでしまう。
厄介な事には、トニー様に封じられたサラミマンボウまで出るんだろう?」
阿部「ああ、キック力増強シューズごときで倒せる相手ではない」
サラミマンボウとは、銃剣では歯が立たない蛇の鱗とマンボウの身体を持つ、火を吹く獰猛な怪物である。
村長の話によると、以前村の隠し芸大会で村人達に煽られたトニー=ブラウンが召喚したはいいが帰す事が出来ず、仕方なくそこに封印したのだと言う。
サラミマンボウはサラミマンボウで、それを期に住み着いてしまったらしい。
293
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
15:11:47.11 ID:5f140KfBO
(´_ゝ`)「それで、コナソとやらは『魔の洞窟』に向かったと?お前は近付かないように注意しなかったのか」
兄者のとがめるような声を受けて、阿部がムッとした顔つきになる。
阿部「失敬だな。十分身体に教えてやったに決まっているだろう」
(´_ゝ`)「いや、口で言えよ…」
阿部「近付くな、と言ったのが逆にまずかったのかもしれんな。『見た目は子供、頭脳は大人』だのと抜かす癖に、アイツは変にムキになる所がある。業を煮やして単独突入……有り得るな」
ツッコミをさらりと流して、阿部は下ろしていた荷物を再び担ぎ上げた。
295
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
15:23:45.56 ID:5f140KfBO
(´_ゝ`)「どうするんだ?」
荷物を担いだまま大きな岩に腰掛け、目を閉じて隊員が差し入れたマムシドリンクを飲み下している阿部を見ながら緊張を孕んだ声で兄者が問い掛ける。
阿部「30分待つ。単なる小便かもしれんしな」
(´_ゝ`)「30分経って帰って来なかったら?」
阿部「突撃だ。仲間を見捨てる訳にはいかんしな」
阿部は薄目を開けて兄者を見つめ、真顔で答えた。
阿部「それに、隊を乱した罰として、菊座にフリスクを三箱詰めてやらないと俺の気が納まらん」
(´_ゝ`)「それがやりたいだけか…」
呆れたように兄者が呟く。
298
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
15:32:01.62 ID:5f140KfBO
川の音。鳥の鳴く音。
一班以外の班が組み立てたテントの中で続々と眠りに就く中、静かに刻刻と時間は過ぎて行った。
阿部が愛用のC-SHOCKに目を落とす。
――30分経った。
阿部「お前達は休んでおけ。ジェイハンカク、留守を頼む」
(・J・)「はい!」
副隊員らしい青年に一言告げてから、阿部は頭の中に叩き込んでいる地図を辿り、『魔の洞窟』へと足を向けた。
阿部「………」
(´_ゝ`)「………」
阿部「なぜ着いてくる?」
(´_ゝ`)「…暇だからな。別にお前の身を心配しているわけじゃない」
阿部「……いつの間にかツンデレ属性になっているようだな」
(´_ゝ`)「ツンデレはいいぞ、ツンデレは」
二人は速足に歩き続けた。
299
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
15:38:21.49 ID:5f140KfBO
タッタッタッタッタ…
一心に小道を駆け続けていた少年は、黄色いロープの張り巡らされた洞窟の前でようやく足を止めた。
「『近寄るな』なんざ、めちゃめちゃ怪しいじゃねぇかバーロー」
___、
ヘ/ \
7 ヽ
i ⌒ヽ
| _ ィ 、ヽ
v-、 ノ∠_ノ} /リ_ト、}}
{ゝvv-ッァ∠ィチj/l} リ
ヽて、 ヽ二ノ ヾニノjノ
>-、
_″/
<`i l∩ーつ<
L_「ソ′ア 」|ヽ
301
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
15:49:18.37 ID:5f140KfBO
少年、コナソは目測で洞窟の深さを確かめる。それなりの長さはありそうだった。
深呼吸して、眼鏡の赤外線スコープ機能をONにする。これで暗がりでも大丈夫だろう。
(□-□)「さーて、隊長に見つかって掘られない内に行きますかね…っと」
黄色いロープを潜り、洞窟に入るとヒヤリと湿り気のある空気が肌を撫でた。
ぴちょん、…――ぴちょん……
水が滴る音が鼓膜を打つ。
(□-□)「不気味なもんだな…だけど、こんな所に居るもんなんだよな。真犯人ってもんは」
304
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
15:59:03.12 ID:5f140KfBO
小さな一人言さえ洞窟内に大きく反響して、エコーとなって消えて行った。
慎重に道を選びながら、足を進めて行く。このスリル。ドキドキ感。
たまらない。
程なくコナソは立ち止まった。
(□-□)「…分かれ道か」
チカリ。
(□-□)「…光?」
スッ。条件反射で物影に身を潜めてから、コナソは二又に分かれた道のうち、右の方の奥深くへと目を凝らす。
(□-□)(確かに光だ…)
ゆらゆらと揺れる、例えて言うならば鬼火のようなそれは、鬼火のような不気味さは無く―――黄金色に輝いていて、美しかった。
307
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
16:13:24.84 ID:5f140KfBO
魅入られたようにコナソは動けない。光はだんだんと、滑るように近付いてくる。
(□-□)(……)
光との距離が近くなるにつれ、透き通った白い衣のようなものが、暗闇の中でも薄く発光しながら揺れているのが分かった。
ドキン。ドキン。
胸が早鐘を打ち始める。
(□-□)(…!光じゃ…ない!!)
悟った頃には、その人物はコナソの数メートル向こうにてこちらを見つめて柔和な微笑を浮かべていた。
柔らかそうな黄金の髪は文字通り光輝いて、一部の隙も無く整った顔立ちは人間の匂いを感じさせない。何よりその立ち振る舞いは、全く音と言うものを立てていなかった。
309
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
16:23:18.14 ID:5f140KfBO
何て…ああ、何て綺麗な人間なんだろうか。
(;□-□)「トニー=ブラウン…」
(VV≦・*)「……」
にこり。
思わず漏らしたコナソの呟きに、その人物、トニー=ブラウンはやさしく、そう、やさしく微笑みかける。
否定もせず、肯定もせず。
(;□-□)「あ、アンタが神…トニー=ブラウ…」
まるで大きな感動に出くわした如く。
胸を掴まれたように意識をすべて目の前の男に持っていかれて、コナソは背後から何かがはいずり出てくる音に気付かなかった。
トニーは相変わらず、清らかな笑みを浮かべている。
コナソは立ち上がり、ふらふらと一歩を踏み出した。
(□-□)「見つけた…見つけたぜ、バーロー」
美しい白衣に導かれるように手を延ばした時―――
キシャアアアアアアアアッ!!!!!
4000℃の灼熱が、コナソの身体を焼き尽くした。
313
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
16:36:05.18 ID:5f140KfBO
阿部「…………」
(´_ゝ`)「…………」
阿部「遅かった…か」
魔の洞窟の入口。
黄色いロープの真下に転がった真新しい人骨を見下ろして、阿部がポツリと呟いた。
炭にも似たそれにそっと触れると、まだ温かい。焼け残った眼鏡が、過去の人物の名残りを見せていた。
(´_ゝ`)「………」
静かに黙祷を捧げていた兄者は、小さく吐息を吐くと真っ暗な洞窟の中をねめ付ける。
(´_ゝ`)「…離れよう。サラミマンボウが出てくるやもしれん。火炎放射など喰らっては流石の俺たちもおだぶつだ」
阿部「…ああ」
唇を引き結んで何かに堪えていた阿部は、切り替え早く立ち上がる。
二人とも、長年の経験から何を優先せねばいけないかは知っていた。
316
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水)
16:45:23.67 ID:5f140KfBO
阿部「…おっと」
思い出したかのように、阿部が小さな骨を拾い上げた。丁寧に煤を払い、ハンカチで包むとツナギのポケットにしまい込む。
阿部「この馬鹿が。次に生まれて来た時お前の菊座は開きっ放しの運命を辿ると思え」
(´_ゝ`)「……ふ」
誰かに言い聞かせるような阿部の言葉に、兄者は目を伏せて笑った。
阿部「何かおかしいか?」
(´_ゝ`)「いや…そう言う所も変わっていないな、と思っただけだ」
阿部「そうか」
(´_ゝ`)「そうさ」
それきり二人、言葉も無く元来た道を引き返して行った。
第6部4
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