109CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 00:54:46.44 ID:6GeuTDBmO
( ^ω^)「……」

('A`)「どうした?」

黙ってしまった内藤を見つめ、ドクオが眉を寄せる。

( ^ω^)(もし…僕らの首輪を外して…助けたなんてもし村人たちにバレたら……この人はヒドい目に合っちゃわないかお…?)

('A`)「?」

内藤の良心が、素性を明かす事を躊躇わせていた。このまま何も知らせずに出て行った方が、彼のためでは無いのだろうか。

不自然な沈黙を打ち破ったのは、ツンだった。

ξ゚听)ξ「ねぇ」
111CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 01:03:28.21 ID:6GeuTDBmO
('A`)「あ?」

ξ゚听)ξ「これから私たちが話す事は、きっと貴方にとって不利益な話よ。それでも聞きたい?」

( ^ω^)「ツン!」

まるで内藤の心理を読んだかのような前置きを置いて、ツンはドクオの顔をじっと見つめた。
ドクオは若い女性に見つめられる経験が少ないのか一瞬うろたえたような態度を取り―――見つめ返す。

('A`)「…よくわかんねぇけど、すっきりしねぇのは嫌いだ。話してくれた方が、いい」

ξ゚听)ξ「…分かったわ。なら、少し複雑だけど今までの経緯を話すわね」

(;^ω^)「ツン!でも…!」

毅然としたツンの背中をただ眺めていた内藤は、無意識に彼女の腕を引いていた。
ツンが振り返る。
113CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 01:11:44.30 ID:6GeuTDBmO
ξ゚听)ξ「ブーン。アンタ、この村に来ての我が身を振り返って一度でも『悪い』と思うような事、した?」

( ^ω^)「………」

ξ゚听)ξ「私は、してないわ」

ツンははっきりと言い切った。

ξ゚听)ξ「悪い事してればそりゃあ後ろめたくも思うわ。でも、私は私を信じて、自分に非が無いと言い切れる自信がある。
私“たち”がやって来た事に、後ろめたい事なんて何一つ無いんだもの。それを知って貰うのは、少しも怖い事じゃないわ」

( ^ω^)「………」

ξ゚听)ξ「それともアンタは、自分のした事を後ろめたいと思ってる?」

ツンは冴えた声音をストレートにぶつけてくる。彼女らしい、余りにも彼女らしい言葉だった。
162CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 18:15:26.59 ID:6GeuTDBmO
そうだ。

ツンの強い目に支えられて、内藤も頷いた。

( ^ω^)「僕も、僕も悪い事なんてやってないお…!神様の前でもハッキリそう言えるお!」

ξ゚ー゚)ξ「トニー・ブラウンの前でも…ね」

思わず『神』と言う単語を口にした内藤に、ツンが笑いかける。その表情はどこまでも綺麗だった。

('A`)「トニー…」

ξ゚听)ξ「ええ。全てはこの存在から始まったの。」

ドクオの呟きを拾って、背筋をピンと伸ばしたツンが口火を切った。それをゆったりと横たわったラオウが好ましげに見つめている。

それから、ツンは淀みなくすべてを語った。

163CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 18:26:55.39 ID:6GeuTDBmO
ドクオは黙って聞いている。

安産を祈願するためにトニーの噂を聞き付け、ニュー速町からハレルジャ・ヴィップレッジに旅立った事。
途中で荷物ごと馬車を盗まれてしまった事。

たどり着いた村の、余りの美しさに息を呑んだ事。

案内された『白の祠』に、神など居なかった事。
突然の爆発の事。
自分達が「神を怒らせた悪魔」として捕らえられた事。
集会での、村長と秘書の狂言の事。
死刑を宣告された時の恐怖。
村長の言により、三日間の猶予を与えられた事。

危険なチューボー・フォレストでの探索を強制された事。
狼達に追われ、ドクオに助けられた事。


明日の日没までにトニー=ブラウンを見つけ出さなければ、自分達の命は無い事。
165CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 18:35:40.36 ID:6GeuTDBmO
ξ゚听)ξ「私たちは不本意ながら『罪人』として扱われているわ。こんな所でのんびりしてるのが見つかったら、それこそ捕まって殺されちゃうかもしれない。そして、私たちを助けた事がパニック状態の村人たちに知られたら、貴方の身も危ういかもしれない」

ツンは一息吐いて、ドクオが入れてくれたハーブティーで喉を潤した。

ξ゚听)ξ「けれど、話しておきたかったの。だって私たちは、何も恥じるような事はしてないから」

('A`)「………アンタらがマターリの言ってた夫婦、って事か…」

長い話をかみ砕くように顎に手を添えて考えていたドクオが、頷いた。

166CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 18:49:14.83 ID:6GeuTDBmO
('A`)「俺がここらにトニーを捜しに来た奴から聞いた話は、違う。早く言えばアンタらの話ん中に出て来た、クソジジイと垂れ眉秘書が話した内容とそっくりそのままだ」

( ^ω^)「それが出鱈目なんだお!信じてくれないかもしれないけど、僕らは本当に身に覚えが無いんだお!」

首を振りながら言うドクオに内藤が必死で訴えた。

( ^ω^)「もし…君が…村長たちの言う事を信じて、僕らを『罪人』と見なすのなら…僕らを憎むなら…それは仕方ないお。君がそう思うのなら、僕らは今すぐ此処から出て行くお。僕らを助けた事は忘れて欲しいお」

('A`)「………」

ドクオがハーブティーの揺れるマグカップを置き、神妙な顔で内藤を見た。

('A`)「……アホじゃね?」

167CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 19:03:44.76 ID:6GeuTDBmO
ミ,,@盆@ミ『アホだなー♪』

('A`)「ん。あ、おまえらお代わり飲むか?」

ミ,,@ω@ミ『飲むでしゅー!』

('A`)「紅茶を嗜む狼っつーモンはいつ見ても慣れねぇなぁ…」

( ^ω^)ξ゚听)ξ「…………」

('A`)「おまえらは?いらねーの?」

ドクオがヤカンを手に聞いて来るその様子は余りにもあっけらかんとしていて、内藤夫婦達が戸惑うほどだった。

(;^ω^)「あ、いただきますお……だけど、その、あの、結構今重い話したんだけど軽くスルーっぽいて言うか……」

('A`)「ハッピーターンの粉美味ぇwwwwwww」
( ^ω^)「人の話聞けよwwwwwww」

内藤に割り込んでツンがドクオに詰め寄る。

ξ゚听)ξ「気にならないの…?貴方。自分が危ないかもしれないのよ?!」
169CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 19:18:58.50 ID:6GeuTDBmO
('A`;)「ちょwwwあんま寄るなwwww童貞には辛いwwwwww」

ξ゚听)ξ「はぐらかさないで真面目に答えなさいよ!」

何故かムキになるツンを引きはがして、ドクオは困った顔で夫婦達を見た。

('A`)「だって…俺、トニー嫌いだし」

( ^ω^)ξ゚听)ξ「はい?!」

('A`)「アンタらがさぁ、トニー失踪の原因じゃないって言うんならそうなんだろうし。
もしクソジジイの話が正しくても、トニーが消えて困る事なんざ俺には無ぇし、いいんじゃね?第一、俺は元々村人皆に嫌われてっしな」

170CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 19:34:53.06 ID:6GeuTDBmO
ξ゚听)ξ「そんな簡単に、済ませちゃっていいの?」

呆れたように呟くツンの目も気にせず、ドクオは食事の後片付けをしながらごく軽く頷いて見せた。

('A`)「俺はパツキン野郎が気に食わなくて村を出たクチだ。神だの何だの、最初から気にしちゃいねーよ」

ニヤリと笑う。

('A`)「むしろ、アンタらみてぇなのと話せて嬉しいぜ。この辺りの人間と来たら皆が皆トニー様マンセーでよ。辟易してたところだ」

( ^ω^)「………」

ドクオはひどくアッサリとした人間のようだった。
183CATS ◆STRAY/tOkM [親指痛ぇ] :2006/04/04(火) 21:53:49.72 ID:6GeuTDBmO
ミ,,@盆@ミ『トニー様マンセー、か…』

鼻先に皺を寄せ、長々と溜息を吐いたのはラオウだった。

ミ,,@盆@ミ『人間どもは勝手よの。自分達の目先の欲にしがみつくばかりで、某らが奴によって被害を被っておる事は何一つ知らぬ顔なのだから』

( ^ω^)「どう言う事だお?」

ミ,,@盆@ミ『…』

内藤の問いに、ラオウは不機嫌そうにそっぽを向いた。何となく気まずい沈黙が流れる。

ξ゚听)ξ「そう言えば…何故貴方はトニー=ブラウンを毛嫌いするの?」

ツンが思い出したようにドクオに問い掛ける。

ξ゚听)ξ「しぃさんに貴方の話を聞いた時からずっと気になってたのよ。若い子特有の理由無き反抗、ってやつなのかしら?」

('A`)「しぃ、か………」

ツンの言葉にドクオは小さく反応して―――…

「着いて来いよ」

それだけ言った。
185CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 22:18:19.33 ID:6GeuTDBmO
( ^ω^)「……」

――寒い?

ドクオに着いて洞穴を出た、最初の感想がそれだった。気温が少し低い気がする。

('A`)「ハレルジャに比べりゃ、寒く感じるだろうな」

内藤の心情を読んだかのように、先頭を行くドクオが振り向いた。

('A`)「距離こそはほとんど離れちゃねぇが、此処とハレルジャの気温は違うんだ。気候も違う。ひどい時なんざ此処だけ日照りで向こうには恵みの雨ってやつが降ってる時もある。まぁ、今は晴れてるがな」

ξ゚听)ξ「そんな…そんな事が可能なの?」

ミ,,@盆@ミ『…それがトニー・ブラウンと言う男の“力”だ』

忌ま忌ましそうにラオウが吐き捨てる。
187CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 22:32:44.20 ID:6GeuTDBmO
ミ,,@盆@ミ『ハレルジャ村とその周辺一帯だけは気候や環境バランスを調整し、人間にとって住み良い空間を造り出す…。だが、自分を受け入れなかったドクオの住む場所のみは何の恩恵も与えない…それが奴の意向らしい』

('A`)「あいつはムカつくが、力だけは本物らしいからな」

立ち止まっていたドクオが、足場の悪い砂利道を再び歩き出しながら便乗する。
『荒れ地』と言う呼び名はその通りで、本当に何も無い寂しい土地だった。

少し開けた場所に出る。

('A`)「でもな。此処が『本物』のハレルジャ=ヴィップレッジだ」

( ^ω^)「本物、の…」
('A`)「ああ。2年前のハレルジャの姿。それが此処なのさ」

188CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 22:47:07.65 ID:6GeuTDBmO
ドクオの声には、抑えた寂寥が混じっていた。遠い目をして、彼は物語る。

('A`)「遠い昔だ。俺達のご先祖さんが領主に与えられたこの土地は典型的な不毛の大地だった。
全く暮らしていけねぇって訳じゃないが、普通の生活すらも程遠い。それでも、当時は移住がご法度だったからな。ご先祖さん達は仕方なくこの地に住み続けたのさ」

( ^ω^)「………」

('A`)「ご先祖さん達はそりゃ頑張ったらしい。荒れた土地に環境に強い木を植えて、長い時間を掛けて森を作った。…それが現在のチューボー・フォレストだ」

ミ,,@盆@ミ『…』
190CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 22:54:14.22 ID:6GeuTDBmO
('A`)「長い間住んでりゃ、嫌でも愛着が湧くもんだ。開墾に次ぐ開墾、土地改良。変わりやすい天候に対応出来る、土地に適した作物の開発。
俺らの代になって、ようやく村は村らしくなってきた。つってもアンタらの住む町なんかと比べちゃ、ダイヤとタイヤくらいの差がある汚ぇ村だったけどな」

( ^ω^)「これは…」

内藤の目に、すくすくと育った作物で溢れる小さな畑が飛び込んで来た。

ドクオは俯いて言葉を続ける。

('A`)「俺は、その汚ぇ村が好きだったんだ」

191CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 23:18:51.55 ID:6GeuTDBmO
丹精に世話をされたハルコムギの穂が風にさやさやと揺れる音が、内藤達の耳に優しく響く。

('A`)「試行錯誤して開発したプッカイモが実を付けりゃそれだけで喜んで、少ねぇ作物は分け合って。
肥料の取り分だのくだんねぇ事で思い切り喧嘩して、たまの祭にゃ精一杯ご馳走作って馬鹿笑いしてはしゃいだりしてよ。
……そう言うくだんねぇ、馬鹿みてぇに汚ぇ村が俺は好きだった」

ドクオはまた歩き出す。内藤達は、掛ける言葉も無く着いていく。

('A`)「トニーが来てから、皆忘れちまったんだ」

( ^ω^)ξ゚听)ξ「……これは……」

内藤達は目を見開いて立ち尽くした。

('A`)「荒れ地にだって、花は咲くって事をよ」
193CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 23:35:25.91 ID:6GeuTDBmO
ξ*゚听)ξ「綺麗…」

灰色と、赤、白、オレンジ、ピンク。
それは見事なコントラストだった。枯れた色をした土地を埋め尽くすように咲く一面の花畑。
むせ返るような花の香りだ。羽を休めていた蝶が、ゆうるりとツンの隣を過ぎて行く。

(*^ω^)「凄いお、凄いお…!こんな所でこんな綺麗な花が咲くなんて凄いお!!」

気が済むだけみとれると、内藤は興奮気味にドクオの肩を叩く。

('∀`)「痛ぇよ、止めろよ…」

色鮮やかさや花の質の点では、レディ・しぃの家で見た花花の方が遥かに上なのかもしれない。だが、

(*^ω^)「僕こんなに綺麗な花畑見た事ないお!」

内藤は心からそう思った。

194CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火) 23:58:21.03 ID:6GeuTDBmO
――しょぼいけど、神様なんかに頼らなくても、俺達は花を咲かせられるんだぜ――

('A`)「トニーに縋ってる村の連中さ。なんだか皆満たされてるけど、薄っぺらい笑い方するようになっちまったんだ。
どう伝えればいいか分かんねぇけど…何か大事なモンを無くしちまってる気がするんだ」

内藤を落ち着けるように肩を叩き返して、その目に一面の花畑を映したままドクオが不器用に言葉を紡ぐ。

花の傍に寄り、大事そうにそのうちの二輪を摘み上げるとドクオはそれを内藤夫婦に一輪ずつ手渡した。
内藤は白。ツンは明るく光る黄色のガーベラだ。

('A`)「俺、馬鹿だからうまく言えねぇけどさ」

花に魅入る二人を前に、ドクオが困ったように頭を掻く。

('A`)「立派で薄っぺらいモンより、しょぼくても自由で、濃いいモンがいい。そっちの方が、俺はいい」
198CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 00:16:44.28 ID:5f140KfBO
ドクオの言葉は感覚的で、理解しやすいものではなかった。ただ、何故か胸に響いた。

ドクオは、目に見える物より大事な物を持っているんだ。そしてそれを、村人達は持ってはいない。

内藤は、そう思った。

( ^ω^)「……」

('A`*)「ま、まあ…そう言う感じだな。俺がトニーを嫌いだっつう理由の一つは」

気恥ずかしそうにバリバリと頭を掻くドクオを見て、話の長さに眠りこけたセルバンテスを背中に乗せながらラオウがニヤニヤと笑っている。

ξ゚听)ξ「一つって事は他にもあるの?」

ガーベラを撫でながら、ツンが首を傾げる。

('A`)「ああ。俺はイケメンと背が高くてモテる男が嫌いなんだ」

( ^ω^)ξ゚听)ξ「ガキかよwwwwwwww」
201CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 00:48:50.08 ID:5f140KfBO
ミ,,@盆@ミ『…ッぷ、』

見事に唱和した内藤とツンのツッコミにラオウが吹き出した。
それをきっかけに、緊張していた空気が一気に緩んだ。

( ^ω^)「……っくく」

ξ゚ー゚)ξ「…ふふふ」

肩を震わせて笑い始めた夫婦を見て、怪訝そうな顔をしていたドクオの口元も緩み始める。

('∀`)「何だよ、何笑って……っはは」

(*^ω^)「ぷふふふふっ!な、何だかわかんないけど凄く明るい気持ちになったんだお!」

ξ*゚ー゚)ξ「ほんと、不思議…気が抜けたら何だか、笑いたくなってきちゃって…」

ミ,,@盆@ミ『ふはははは!おかしな奴らだ。春のせいかもしれぬな』

('∀`)「訳わかんねぇよお前ら!腹痛ぇじゃねーかよ!!」

荒れ地で咲く花畑の前で一同はひたすら、笑い転げた。
202CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 01:03:52.66 ID:5f140KfBO
人間舐めてんじゃねぇ!

沸き起こる笑いの中、誰かが叫んだ。

神様なんか糞喰らえだ!

と。内藤達は更に笑い転げる。

冒涜だと、人は批難するだろうか。
そんなつもりは無かった。「明るい気持ち」。ただそれだけが、皆の胸を満たしていた。

('∀`)「あー…んで、お前らこの後どうすんだ?」

笑いの余韻残る表情そのままに、引き攣る腹を苦しそうに撫でつつドクオが問い掛けたのは悠に10分も経過してからだった。

( ^ω^)「この後…」

内藤がハタと笑いを止めて、ドクオを見つめる。

ξ゚听)ξ「……考えて無かったわ」

203CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 01:13:39.21 ID:5f140KfBO
( ^ω^)「と、とりあえずトニー・ブラウンを捜して…」

ミ,,@盆@ミ『先に言っておくが、チューボー・フォレスト全域にトニーの姿は無かったぞ』

(;^ω^)「う………」

前足を舐めながら言うラオウを恨めしそうに見つめ、内藤が口を尖らせる。

大袈裟な溜息を吐いて、ドクオが腕を組んだ。

('A`)「ばぁか。今更トニー捜しに精を出すなんざ何処のお人よしだよ、てめーは」

ξ゚听)ξ「どう言う事?」

('A`)「…お前らホントにアホか?」

ξ#゚听)ξ「どういう意味よ!!」

食ってかかるツンに気圧されながら、ドクオはひょいと手を延ばして彼女の首を撫でる。

(#^ω^)「ちょwww人の嫁に手を出すな…………って、あ。」

204CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 01:21:38.07 ID:5f140KfBO
内藤はようやく気付いて、自分の首元に手をやる。

('A`)「疲れてっと頭鈍くなるみてぇだな。てめーら縛る首輪は無い。チューボー・フォレストからも抜け出した。おい、今更何の義理があってパツキン男を捜すっつうんだ?」

ξ゚听)ξ「そ、それもそうね……」

内藤達の脳内には「トニーを見つけ出す」のが自分達が助かる唯一の道だとインプットされていた。
自分の置かれている状況にまだ実感が湧かない分、直ぐには信じられなかったが、今ここにもう一つの選択肢が浮かび上がって来ていた。
そう。

( ^ω^)「逃げる……」

205CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 01:33:49.98 ID:5f140KfBO
('A`)「普通そう考えるぜ、誰でもな。ましてや、こっから出た道をずっと行けばあんたらの町…とまではいかなくても、適当な町やら村やらは直ぐに見えてくる。とっとと潜り込んで身を隠しちまえばいいじゃねーか」

ξ゚听)ξ「逃げる…」

ミ,,@盆@ミ『ふむ…某も主らの立場ならばそうするだろうな』

話に集中する余り、目を覚ましたセルバンテスが背中から下りて跳ねるような足取りで駆けていくのにラオウは気付かなかった。

( ^ω^)「気付かれて追われたり…しないかお」

206CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 01:42:11.52 ID:5f140KfBO
('A`)「追い付かれる前に逃げ切ればいい。時間の猶予は明日の夕暮れまでなんだろ?連中が気付くとしたら、夕暮れになってアンタらが帰って来ない場合だろ。いやその前に追っ手も何も、死んだと思って捜しすらしねーかもな。
夜通し歩けば一番近い町…ラウンジタウンか。そこには十分着く距離だぜ」

ξ゚听)ξ「…何処にいるかもわからないトニー・ブラウンを捜して歩き回るより、余程得策と言えそうね」

ツンの目に、俄然生気が帯びて来た。無意識にその手は、膨らんだ腹部を撫でている。

ξ゚听)ξ「ブーン…」

207CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 01:54:30.03 ID:5f140KfBO
見つめてくるツンに、内藤は力強く頷いた。
希望が、大きくなった―――。

( ^ω^)「分かったお。…僕らは、逃げるお」

ξ*゚听)ξ「ktkr!」

( ^ω^)「神様なんかどーでもいいお。僕らは僕らのために逃げるお、僕らの子供のために逃げるお」

強く言い切る内藤の肩を、ドクオが口端を上げつつポンッと叩いた。

('A`)「いい返事じゃねぇか。気に入ったぜ。乗り掛かった船だ、出来るだけ協力してやらぁ…来いよ」

ミ,,@ω@ミ『パパッ!!ドクオ兄ちゃーんっ!!!』

そう言い、洞穴の方に戻ろうと踏み出した足に、灰色の塊が勢い良く飛び付いて来た。

ミ,,@盆@ミ『セルバンテス!?』

ラオウが目を剥いて息子に駆け寄る。

208CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 02:05:45.69 ID:5f140KfBO
(;^ω^)「ど、どうしたお?!」

ミ,,@ω@ミ『うぇーん…』

セルバンテスは怯えたように震えつつ尻尾を丸め、ラオウのふさふさとした毛並みに擦り付いている。

ミ,,@盆@ミ『………セルバンテス、お前は何処に行っていたのだ』

ミ,,@ω@ミ『……村の入口近く…だよ』

ラオウが安心させるようにその小柄な身体を舐めてやりつつ問い掛けると、セルバンテスは耳を垂れさせながらぽつりと返した。

ミ,,@ω@ミ『僕、お話が退屈になって遊びに行ったんだ。すぐ戻ればいいや…って。暫く走ってたら村の近くに出たんだけど、そしたら、道の真ん中に怖い人間がたくさん立ってて…』

涙目のセルバンテスが、ぶるりと震える。

ミ,,@ω@ミ『僕、撃たれたんだ』

209CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 02:14:52.16 ID:5f140KfBO
('A`)ミ,,@盆@ミ『撃たれた?!』

ドクオとラオウの顔色が厳しくなる。

ミ,,@ω@ミ『当たっては無いけど…怖かったのー…』

ミ,,@盆@ミ『良かっ―――否、馬鹿者!勝手に某の傍から離れるなと何度言ったら解るのだ!!』

ミ,,@ω@ミ『ごめんなさいなのー…』

('A`)「道に…人間が…銃…」

しょぼくれるセルバンテスを親心で以って叱り付けるラオウの耳を、ドクオがぐいと掴んだ。

('A`)「悪ィ、ラオウ。ちょっと気になるんだ、背中貸してくれや」

ミ,,@盆@ミ『う…。承知した。すまないお主ら、息子を頼む』

(;^ω^)「は、はいだお!!」
212CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 02:22:59.72 ID:5f140KfBO
戸惑うようにラオウ達を見守っていた内藤が放り投げられたセルバンテスを危うくキャッチする。それを見届け、ラオウは身を臥せた。

ミ,,@盆@ミ『いいぞ』

('A`)「悪ぃ」

ドクオが慣れたようにその大きな背中に飛び乗ると、途端に風のようなスピードでラオウは荒れ地を駆け抜け村へと通じる道を目指していった。

ξ;゚听)ξ「何があったのかしら…」

呆然とそれを見送っていたツンが、気を取り直すように内藤に抱かれたセルバンテスの鼻面を撫でる。

( ^ω^)「とにかく、セルたんに怪我が無くて良かったお…トニーを捜している人達が、いきなり狼に出くわして驚いたのかもしれないお」
217CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 02:34:01.20 ID:5f140KfBO
ξ゚听)ξ「そうね…怪我が無くて良かった、セルバンテス。こんなに可愛いのに…ひどい事をするわ」

ミ,,@ω@ミ『………』

内藤の言葉に頷きながら優しく撫でてくれるツンに気を許したのか、セルバンテスが震えるのを止める。

ミ,,@ω@ミ『大きな壁があったの…』

( ^ω^)「壁?」

ミ,,@ω@ミ『人間、たくさん…道が無かったの……』

( ^ω^)ξ゚听)ξ「?」

内藤とツンは顔を見合わせた。
道が無い?

それきりセルバンテスは嫌々をするように首を振って、内藤の腕の中で目を閉じてしまった。

ξ゚听)ξ「どういう事だと思う?ブーン」

(;^ω^)「……わかんないお…」

少しだけ、嫌な予感がした。


('A`;)「何だこりゃあ…」
220CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 02:48:08.30 ID:5f140KfBO
気付かれぬように木陰に身を潜めたラオウの隣にはいつくばったドクオが、目に映した景色に素っ頓狂な声をあげた。

見慣れたのどかな一本道とは似ても似つかぬ光景に。

('A`;)「道が…塞がれてやがる」

ミ,,@盆@ミ『あれは何なのだ…?』

ラオウも戸惑いがちに首を捻った。

ドクオ達が眺めているのは、要するに『バリケード』である。
いつの間に運んだのか、材質はコンクリートと思しきバリケードが唯一町に通じる一本道を完全に遮断してしまっている。
その周辺には、肩から銃を下げた男達が5名ほど厳しい面立ちで辺りに視線を配っている。

('A`)「あの揃いで着てるジャケット、何か書いてるな…」

221CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 02:57:12.07 ID:5f140KfBO
ドクオは男達の上着の背に目を懲らす。

('A`;)「……?」

ミ,,@盆@ミ『ARAMAKI SUKARUCHINOFU COMPANY、だ』

英文字の読めないドクオの代わりに、ラオウがすらすらと読み上げた。

('A`)「あらまきすかるちのふかんぱにー…?」

さっぱりと覚えの無い名に首を傾げるドクオの襟首を、ラオウがくわえて引っ張った。

ミ,,@盆@ミ『何だかよくわからんが状況は把握出来ただろう。行くぞ』

('A`)「ちょ、待てよまだ…」

ミ,,@盆@ミ『あの外道どものどれかが息子に発砲したと考えると、今にも喰いかかりたい衝動を抑えられんくなる…行くぞ』

('A`)「…わかったよ」
223CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 03:09:03.90 ID:5f140KfBO
銃を持つ5人にはさすがのニートウルフの長も不利だと心得ているのだろう。
大人しく撤退を選んだラオウに従ってドクオはずりずりと木陰から這い出、背中に跨がった。

ミ,,@盆@ミ『あんな大掛かりな仕掛けをしておるのは…やはりあの者共を逃がさぬため、なのか?』

行きとは異なり、速足気味に緩い坂道を上っていくラオウの背の上でドクオが「いや」と首を振る。

('A`)「もうバレたとは幾らなんでも考えにくいだろ…トニーを村から逃がさないようにする、って考えた方が適当なんじゃないか?」

224CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 03:16:33.61 ID:5f140KfBO
ミ,,@盆@ミ『トニーを?一応神と崇めていた者に銃を向けるのか?』

(;'A`)「わっかんねーよ。ただ、あれは明らかに村の奴じゃねーだろ。どっかのアホの独断かもな」

ミ,,@盆@ミ『アホだなー♪』

('A`)「ん。何にしろ、変に殺気走ってただでは通してはくれなそうな連中だぜ。近づかない方が良さそうだ」

ミ,,@盆@ミ『しかし…近付かない方が良いとは言っても、あの道を通らねば町には至れまい。内藤達はどうするのだ?』

ラオウの問いに、ドクオは暫く悩んだ顔をしていたが、やがては軽く肩を竦めて見せた。

('A`)「…ああ、奴らにゃもうちょい森と仲良くなって貰う事になりそうだな」

225CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/05(水) 03:27:28.01 ID:5f140KfBO
ミ,,@盆@ミ『…と言うと?何か策があるのか。』

('A`)「あんまり使いたくなかったルートだけどな。…なぁに。どっか行っちまえばいいのさ」

ミ,,@盆@ミ『…?』

不思議そうに唸るラオウの耳をつついて、ドクオがスピードを上げるように頼んだ。それに応えて灰色の風が、灰色の荒れ地を駆け抜ける。

('A`)(準備が要るな…)

頬を切るような風圧を身を臥せて堪えながら、頭の中では算段を整えていく。

みるみるうちに、待ちほうけた内藤夫婦とセルバンテスの姿が迫って来た。

第一声に言う言葉は決まっている。

('A`)(……どっか行っちまえばいい)

ハレルジャ・ヴィップレッジに聳える時計塔が、午後一時の鐘の音で空を震わせた。

第6部3
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