7
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
14:15:57.56 ID:krZwD4HUO
【第六部―理由ある反抗―】
闇の中、ガツガツと何かを喰らう音が響いていた。
強風はいつの間にか止み、淀んだ空気を血と獣の匂いが生臭く染めている。
(やばいか――…)
とんでもない場所に足を踏み入れてしまったのかもしれない。舌打ちして早々に踵を返そうとした時だった。
視界の隅に黄金の煌めきが、走る。
「あれは――…」
俺は足を止めて目を凝らした。
そこには。
ミ,,@盆@ミ「グルル…」
真っ赤な鼻面もそのままに屈強な狼が、倒れ伏した男の背に埋めていた顔を上げて鋭い瞳で真っすぐに俺を見返した。
9
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
14:18:50.47 ID:krZwD4HUO
目が覚めるとフルチンだった。
(;; ゚ω゚)
まだ覚醒しない頭をそのままに、内藤は呆然と自分の下半身を見下ろす。
( ^ω^)「・・・天国ではパンツを脱ぐのかお」
ハッ。
(; ^ω^)「僕のズボンとパンツ何処だお!」
状況の把握よりも先にあせあせと消え失せた下着を探す内藤の傍に、カラリと乾いたズボンと下着が放り投げられた。
( ^ω^)「あ!僕のだお!」
内藤は安心したようにそれらを掴むと、ひとまず下半身を隠し―――それから、漸く気付いたように顔を上げた。
('A`)「はよ」
( ^ω^)「き、君は…」
少年は至極アッサリと挨拶を投げてくると、手慣れた手つきで燃え立つ組木の上のすすけた鍋を揺り動かす。
11
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
14:23:18.48 ID:krZwD4HUO
( ^ω^)「ここは…君の家かお?」
どうやら内藤は洞穴の中に居るようだった。ただし、やけに生活感のある洞穴だが。入口から差し込んでくる光は、柔らかい。
朝のようだった。
('A`)「ん?ああ。見りゃわかるだろ」
(;^ω^)「…どうして僕のパンツを?」
('A`)「漏らしてたんだよ。小便臭いの家に入れたくは無かったからな。洗っといた」
なんでもなさそうに言って見せる少年に、内藤は赤面した。
(;^ω^)「も、申し訳…ないお………」
('A`)「気にするこっちゃねーよ。あんな状況、慣れてない奴はチビって当たり前だしな」
( ^ω^)「あんな状況…」
13
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
14:34:18.94 ID:krZwD4HUO
内藤の脳裏に、昨夜の出来事がまざまざと蘇ってきた。
( ^ω^)(……)
灰色のニートウルフの悲しげな遠吠え。
身に襲い掛かる鉤爪。
食い破られた背中。
( ^ω^)(……?)
内藤は恐る恐る、自分の背中に触れてみた。
だが、猫背気味の背中にはつるりとした皮膚を感じるばかりで傷らしい傷が見当たらない。
いや、それ以前に。
(;^ω^)(痛くない…?)
走り回った筋肉痛こそ残っているもの、あれほど傷を負っておきながら内藤の身体からは痛みらしい痛みが消えていた。
頬を触る。心なしか腫れも引いているような気がした。
(;^ω^)(ど、どういう事だお…)
戸惑うのも仕方が無かった。だが、内藤はそれよりも更に重要なものを思い出すなり少年に飛び付いていた。
(;^ω^)「つ、ツンは!ツンは無事なのかお!」
14
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
14:42:49.34 ID:krZwD4HUO
そうだ。ツンは―――
('A`)「あ?そこで寝てる女の事か?」
飛び付かれた少年は驚いたように目を瞬かせながら、洞穴の一番奥にある、毛布の丸みを指差した。
( ^ω^)「!!!!」
内藤はそれを見るなり、さかさかと這うようにして毛布に突進し――――
ξ*--)ξzzz…
少し寝苦しそうながらも規則正しく落ち着いた寝息を立てるツンの姿を見るなり、張り詰めていた力が一気に抜けていくのを感じて内藤はへなへなとその場に座り込んだ。
( ^ω^)「ツン…」
そっと寝顔に触れる。
やや汗ばんだツンの額に、あの焼けるような熱は無い。
( ^ω^)「よ、よかったお……」
15
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
14:53:19.88 ID:krZwD4HUO
初めて知った。
人は本当に安堵した時、笑顔を浮かべる事すらままならないのだと。
( ^ω^)「……」
目覚める気配の無いツンをただただ呆然と見守っている内藤の膝元には縁の欠けた薬碗があり、その中には何やら緑色の粉末が盛られていた。
更に、その隣には水の張られた小さな桶。
その意味する所は、一つだった。
( ^ω^)「君が…ツンを助けてくれたのかお?」
('A`)「助けた…ってほどたいした事してねーな。単に傷口から入り込んだらしいチュウボウ菌にやられちまってたから、対処としてあぼーん草の粉末を飲ませといただけだ」
16
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
15:07:05.15 ID:krZwD4HUO
( ^ω^)「そ、それを助けたって言うんだお!僕の傷も…ひょっとして君が治療してくれたのかお?」
('A`)「打撲による痛みを消すならハイ草とネケン草を8割方乾燥させモンを9:1の割合で調合したのが適当だな。擦り傷の場合はザー油とハイ草、バドワイ草を―――」
手は鍋の中身を掻き交ぜ続けたまま、少年は滔々と語り出す。
内藤にはよく分からなかったが、少年の口ぶりからして彼はどうやら薬草類のエキスパートらしい。
そして、その知識で以って、内藤夫婦の窮地を救ってくれたようだった。
('A`)「…つう感じだな。筋肉痛に効くラングドシャは、女に使った時点で切れちまった。まあ男なんだからよ、そんくらい我慢しろや」
(*^ω^)「と、とにかく有難うだお!感謝しても仕切れないお!!君は命の恩人だお!!!」
18
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
15:19:37.98 ID:krZwD4HUO
('A`;)「や、やめろ抱き着くな。朝からくそみそする気はねーよ。鍋零れたらどうしてくれんだ」
抱き着いてきた内藤を片腕を突っぱねて拒否しながら、少年は困った顔でぶつぶつと呟く。
だが内藤は全身の喜びを抑え切れずになつっこく笑顔を浮かべたまま、少年の手を握り力の限りに振った。
('A`;)「ちょ…俺そんな感謝されるほど何もしてねーよ」
(*^ω^)「たいした事だお!謙遜するなお!僕ら悪い狼に襲われて絶対死んだと思ってたんだお!」
('A`)「悪い狼…」
少年がピクリと反応した。
(;^ω^)「そうだお。見た瞬間悪の匂いがぷんぷんするような凶暴な狼だお。僕なんか背中に噛み付かれたお。ニートウルフって言うんだお。君も知ってるかお?」
('A`)「お前なぁ……」
『――…言いたい事はそれだけか?』
興奮気味の内藤に呆れたような眼差しを向ける少年の溜息と重なり、地響きのような低い唸りが洞穴内に響いた。
19
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
15:30:17.01 ID:krZwD4HUO
洞穴の入口間際、朝の光を逆光に浴び、灰色の毛並みを持つ大きな狼が堂々たる立ち姿でこちらを睨み付けていた。
( ゜ω゜)
言葉も無く固まる内藤を冷徹そうな黄金の目で一瞥し、そのニートウルフは洞穴内に悠々と足を進めながら「けしからん」と言いたげに鼻を鳴らす。
ミ,,@盆@ミ『先にルールを侵したのはどちらだ。大体、人を見掛けで判断するなと幼少の頃にご両親から教わらんかったのか。…まったく最近の若者は教育が為っていない。これぞゆとり教育の弊害だな』
ミ,,@ω@ミ『パパー、お腹減ったよう』
20
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
15:39:48.48 ID:krZwD4HUO
ミ,,@盆@ミ『…人の家にお邪魔しているんだから少し落ち着きなさい。今ドクオお兄さんが準備してくれているからね。お父さんの隣においで、セルバンテス』
ミ´@ω@ミ『はぁい』
('A`)「あ?お前も食って行くんか?ラオウ。足りっかなコレ」
ミ,,@盆@ミ『相応の働きはしたと思うのだが…なに、そう多くは食うまい』
ミ*@ω@ミ『ドクオお兄ちゃん僕、エロニンジン食べたいのー』
内藤が我に還ったのは、二匹が少年の傍に大人しく座り込み、旧知の間柄のように会話を始め出した頃であった。
(;^ω^)「ちょwwww普通に喋っwwwwwwwwwどういう事だおwwwwwwww」
21
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
15:49:52.19 ID:krZwD4HUO
ドクオは相変わらず料理に専念したまま答えず、内藤の反応を呆れたように眺めてラオウと呼ばれたニートウルフが口を開いた。
ミ,,@盆@ミ『会話が出来て何か不都合があるのか』
(;^ω^)「じ、人語を話せる狼なんて聞いた事無いお!」
ミ,,@盆@ミ『某(それがし)達の知能を舐めて貰っては困る。人間どもの言語など網羅しておるわ。…と言っても、発声器官が会話向きに備わっているのは我がニートウルフ一門でも某の血筋のみのようであるがな』
ミ,,@ω@ミ『ちゃーん』
40
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
19:10:24.77 ID:krZwD4HUO
(;^ω^)「はあ…」
内藤はただただ相槌を打つ事しか出来ない。狼が喋るなど、『もぬぬけ姫』の世界だけだと思っていたのだ。実際にこうして目の当たりにすると、何ともやりにくい。
ラオウは内藤を見つめながら低く続ける。
ミ,,@盆@ミ『進化しているのが、主ら人間のみだとは思うのは傲慢極まりないぞ…。我々獣とて、日々生きていく上で進化しておるのだ』
('A`)「あ、ラオウごめん、そこの鶏がらスープの素取って」
ミ,,@盆@ミ『鶏がらスープの素とはこれか?』
('A`)「それ甲子園の砂」
( ^ω^)「ちょwwwwww」
話が纏まらない。聞きたい事は沢山あった。
が、何から聞けば良いのか分からない。
43
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
19:29:45.92 ID:krZwD4HUO
自分達はどうして助かったのか?
自分の背中の傷はどうなったのか?
少年は高校球児なのか?
ラオウと少年の関係は?
少年はなぜ自分達を助けてくれたのか?
そしてここは何処か?
全てが目まぐるしく脳内を巡るだけで、言葉となって出ては来ない。
(;^ω^)「あ、えーと…」
ミ,,@盆@ミ『これか!鶏がらスープの素とは!』
('A`)「それハッピーターンの粉」
ミ,,@盆@ミ『むう…』
独特なやり取りをしている二人(正確には一人と一匹だが)の間に割り込めずに戸惑う内藤の膝の上を、ぴゅん!と風が通りすぎた。
46
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
19:42:57.17 ID:krZwD4HUO
( ^ω^)「なんだお…、…!!」
思わず振り向いた内藤の目に、だるそうに上半身を起こして目を瞬かせているツンの姿が映った。
ξ゚听)ξ「ん……」
ミ,,@ω@ミ『パパー!パパー!この人目が覚めたみたいでしゅ!』
セルバンテスと呼ばれた子狼が毛布の周りで跳びはねている。
(*^ω^)「つ、ツン!」
ξ゚听)ξ「…ブーン…ここ…狼?…!…あなた……ドクオくん?」
駆け寄った内藤の抱擁を受けながら、今だぼんやりとした眼のツンがぽつりと少年を見て漏らす。
47
:CATS ◆STRAY/tOkM [ただいまんごー]
:2006/04/03(月) 19:47:14.39 ID:krZwD4HUO
(;^ω^)「ドクオ?」
('A`)「……覚えてたんか、奥さん」
ξ゚听)ξ「…ええ…ここは何処?私たち…森に居たはずじゃあ…」
ぐううううううううう。
ツンがぎこちなく質問を口にし始めた時、洞穴内に腹の鳴る音が大きく響いた。
ミ,,@盆@ミ『…』
ミ,,@ω@ミ『…』
ξ////)ξ「……」
(;^ω^)「つ、ツン…」
全員の何とも言えない視線を受けて、ツンが俯いた。一人いつもと変わらないドクオが鶏がらの瓶を仕舞いながら、溜息を吐いて盆の上に積み重ねられている皿を取る。
('A`)「…あー、まあ。まず飯にすっか」
48
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
19:58:57.56 ID:krZwD4HUO
( ^ω^)「いただきますお…」
野菜がたっぷりと入ったスープに、おにぎり、鳥ササミ肉の薫製。
それが全員に行き渡ると、三人と二匹が対等に同席する、何とも奇妙な朝食が始まった。
と言っても、朝には少し遅いらしい。ドクオは時計も無い割に堂々と「10時半だ」と告げたからである。
まずは、自己紹介からだった。
( ^ω^)「内藤ホライゾンですお」
ξ゚听)ξ「内藤ツンです」
('A`)「ドクオだ。あんたらに花を預けたあの時は、こんな風に再び顔合わすなんざ思わなかったがな」
ミ,,@盆@ミ『縁とは不思議なものよの…。チューボー・フォレストにてニートウルフを束ねている、ラオウ=マスオだ』
ミ,,@ω@ミ『息子のセルバンテス=タラオでしゅー!』
50
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
20:10:19.47 ID:krZwD4HUO
('A`)「で、ここは俺の家。場所で行ったら――この辺りだな」
ササミ肉にかじりつきながら、トン、とドクオがいつの間にか地面に拡げられた地図を指差す。
チューボー・フォレストからかなり離れているが、比較的村の入口に近い場所にある斜線部。その下には、“荒れ地”とシンプルな黒字で書かれている。
( ^ω^)「て言うかその地図僕のだお」
('A`)「借りたぐらいでガタガタ抜かすな。それより冷めねぇうちに食えよ」
(;^ω^)「も、文句を言ってるわけじゃないんだお!勿論いただきますだお!」
ドクオの言葉により、内藤と、空腹なわりに遠慮していたツンの二人は慌ててスープを掬い、飲み込む。
枯れた身体に一気に浸透していくような温かさが、二人の腹と心を癒していく。
(*^ω^)ξ*゚听)ξ「おいしい!!」
('A`*)「…そうかい」
ドクオは照れたように目を逸らした。
52
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
20:19:43.73 ID:krZwD4HUO
('A`)「聞きたい事はそりゃあるだろうな。だが生憎こっちは口下手でね。とりあえずは昨日の事から話そうと思う」
( ^ω^)「お願いしますお」
('A`)「腰の低い兄ちゃんだな…」
彼よりも明らかに年下な自分にぺこりと丁寧に頭を下げる内藤を見て、やりにくそうに頭を掻くとドクオは動かしていた匙を皿に突っ込んで、ポツリポツリと話し始めた。
('A`)「アンタらを見つけたのは、ホントに偶然だったよ―――…」
54
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
20:30:33.57 ID:krZwD4HUO
―――ウォオーーーン…
鼓膜を揺らす遠吠えと、見返す瞳の黄金に直ぐにピンと来た。
('A`)「何やってんだ…?ラオウ…」
周りの狼達が嬉し気に鳴きながら尾を振り近づいてくる中、俺は暗がりでもくっきりとその勇姿を浮かび上がらせる『森の帝王』に声を掛けた。
('A`)「人…喰っちまったのか、また」
ミ,,@盆@ミ『某達は、噴水の使用料を徴収したのみ。喰らってなどおらん』
悠々と揺るがぬ貫禄を持つニートウルフの長、ラオウ=マスオは「心外だ」とでも言いたげにドクオを見ると、くわえていた一枚のビスケットを、顎を振るって宙へと放り投げた。
ウォンウォン!
狼の内小柄な一匹がしなやかに跳ねると見事にキャッチし、そのままビスケットを旨そうにかみ砕く。
56
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
20:42:11.40 ID:krZwD4HUO
('A`)「…ああ…なるほどね」
ドクオはホッとして力を抜いた。
ラオウがその鋭い歯で食いちぎっていたのは、倒れ伏した男の背中の肉―――では無く、男の背中に頼り無く乗っかり無残に中身を曝しているズタボロ袋だった。
今はこんな風だが、元はちゃんとしたリュックだか何だかなのだろう。
ウォンッ!
ビスケットが舞い、狼が跳ねる。
ラオウは居合わせる狼一頭一頭にまるで恩賞のようにビスケットを与えると、残りを纏めてくわえ一頭の雌狼に歩み寄る。
ウウウ…
ラオウに対して敬意を払うように雌狼は前足を折り、次いでヒョイと後足で立ち上がった。
そしてラオウが、まるでカンガルーのように腹に付いている袋にビスケットを入れて行くのを享受する。
57
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
20:57:11.55 ID:krZwD4HUO
ミ,,@盆@ミ『そう言う事だ…』
ラオウはふるふると身震いしながら戻ってくると、夫婦の近くで既に息絶えているツノウサギの腿肉にかぶりつく。口周りを濡らす赤の原因は、どうやらそれらしかった。
ラオウは舌なめずりしながら、その静かな瞳を不機嫌そうに細めて見せる。
ミ,,@盆@ミ『まったく、こ奴らと来たら勝手に我が領地に入りおった上に水泥棒を働いてからに…。
しかも某が平和的解決を望んで紳士的に噴水使用料を徴収しようとすれば、話し掛ける前に大声を上げて逃げよって…幾ら温厚な某でも、少しばかり懲らしめたくもなるわい』
('A`)「そりゃー仕方ないんじゃね?お前怖ぇもん、見掛けは」
ミ,,@盆@ミ『う…うむ……っ!』
ドクオはじゃれかかる若い狼の鼻面を撫でてやってから、倒れている男女の傍に膝を付いた。
62
:CATS ◆STRAY/tOkM [再開] :2006/04/03(月)
21:22:55.94 ID:krZwD4HUO
('A`)「村人じゃ…ねぇな。どっかで………」
ひっくり返した男の顔を覗き込んで、俺は思わず眉を寄せてしまった。
次に、女の方を確かめようとして――――
ビーッビーッビーッビーッ!!
(;'A`)「うおッ!!」
少し位置を動かした途端に突然けたたましく鳴り始めた甲高い電子音に、俺は思わず腰を抜かした。
('A`)「首輪…?」
女の巻き毛を払って現れたのは、冷たい金属色をした、首輪。
俺はそれに見覚えがあった。
ミ,,@盆@ミ『それを止める方法は無いのか…うるさくて敵わんのだが』
64
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
21:34:07.43 ID:krZwD4HUO
使用料代わりにビスケットを徴収出来たら後は用済み、とでも見なしているのか、俺が男女にかまう様子をさして興味なさそうに見ていたラオウがしかめ面で唸った。
狼の聴力は人間の数倍だ。俺でさえ耳が痛いのに、彼等にしたら苦痛以外の何物でもないだろう。
('A`)「ちょっと待てよ……」
そして上手い事に俺は、その止め方を知っていた。
('A`)「よ、っと」
首からぶら下げていた鍵を服の襟元より取り出し、指先で探り当てた鍵穴に差し込む。
ビーッ!ビーッ!ビーッ!ビー…――――――
ガチャン。
思った通り。呆気なく音は止み、女の細い首から重たげな首輪が外れ落ちた。
ミ,,@盆@ミ『おお…さすがドクオだ』
ラオウを始め、他の狼達が感心したように俺の手元を眺めている。
67
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
21:47:38.78 ID:krZwD4HUO
('A`)「ついでにこいつもやっとくか…」
言いながら俺はついでに男の首輪も開けておく。見ていて気持ちのいいものでは無かったからだ。
ガチャン。
ミ,,@ω@ミ『凄いやドクオ兄ちゃん!ドクオお兄ちゃんの手は魔法の手なの?』
再び硬い音を立てて開いた首輪が地に落ちると共に、身の丈が俺の膝ほどしかない小さな狼が飛び付いてきた。
('A`)「や…魔法じゃねぇよ、セルバンテス」
ミ,,@ω@ミ『嘘だい!魔法だい!ドクオお兄ちゃんが僕の怪我を治しちゃったみたいに、魔法の手で悪い音を止めちゃったんだね!』
('A`;)「魔法じゃねぇって。魔法は後12年童貞でいなきゃ使えねえよ」
ミ,,@盆@ミ『…トニーとやらの作品では無いのか?』
ラオウが首輪の匂いを嗅ぎながら、鼻先に皺を寄せた。
69
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
21:57:51.15 ID:krZwD4HUO
('A`)「…だろうな」
俺も同じ表情で頷く。
趣味が悪いモンを作る癖は相変わらずらしい。
ミ,,@盆@ミ『よく外せたな?某も手を加えてみたがどうにも外せんでな…仕方なく音の鳴らん範囲に避けておくしかなかった』
('A`)「こいつのおかげだよ。ほら」
感嘆の眼差しが欝陶しくなり、俺は紐の先に下げた鍵を揺らしてみせた。
('A`)「結構前か…、俺ん所に迷い込んだ子牛の首輪に刺さっててな。そん時もビービービービーうるさかったんだが、この鍵捻れば大人しくなったもんでよ。
大方どっかのアホ牛飼いが、鍵抜き忘れたまま放しちまったか、首輪開けている最中に逃げられたかしたんだろうよ」
70
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
22:05:17.55 ID:krZwD4HUO
ミ,,@盆@ミ『そうか。その牛飼いは阿呆な奴だな』
('A`)「農家辞めろって感じだよな。まあ、何かの飾りにでもなるかと思って取っといたのが意外な所で役に立ったよ」
ミ,,@盆@ミ『意外……』
ラオウが不思議そうに俺をねめつけてきた。
ミ,,@盆@ミ『御主が此処らまで足を踏み入れるとは珍しいな』
('A`)「あ?確かになー。なんか気が向いてよ。まあハッスル草も十分取れたし、トラウサギも二羽ゲットしたし、悪い選択じゃなかったぜ」
と、俺はずっしりと重い背中の竹籠を揺らして見せる。
72
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
22:17:45.42 ID:krZwD4HUO
('A`)「計算違いは…こんな事態に遭遇しちまったって事か…」
まったく面倒だ。
改めて女の顔を除き見る。薄汚れてしまっているもの、女らしい綺麗な顔立ちだ。まぁ、しぃほどではないが。
俺も若い男だ、女の顔は長く印象に残る。それが美人なら尚更の事。
('A`)「……こいつ、花渡すように頼んだ女じゃねぇか」
ミ,,@盆@ミ『知り合いか?ならば悪いことをした。女の方には傷を付けてはないが…』
('A`)「知り合いって訳じゃねーけどよ…」
申し訳なさそうに尾を垂れるラオウをよそに、俺は首を捻った。
73
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
22:29:06.64 ID:krZwD4HUO
こいつらは、よそ者のはずである。あの強欲村長に歓迎されそうな贈答品らしき荷物も、大量に抱えていたのを覚えている。
なのに家畜に使うような首輪を付けて、こんな人気も無く(俺にとって脅威ではないもの)狂暴だと噂されるニートウルフの棲む森で駆け回っているとは。
俺は再び首を捻った。
この意味するところは――…
('A`)「どんなSMプレイなんだよ…」
ミ,,@盆@ミ『人間とは過激な遊戯をするものだな…』
俺の隣で二人を見下ろしながら、ラオウがしみじみと呟いた。
74
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
22:39:16.70 ID:krZwD4HUO
('A`)「しかし何かひっかかるんだよなぁ…」
ミ,,@盆@ミ『時にドクオ。こ奴らはどうするのだ?
SMが趣味だと言うのなら某も放置プレイとやらに協力した方が良いのか?』
('A`)「いや…今それやったら流石にヤバそうだぜ」
ミ,,@盆@ミ『?』
('A`)「男の方は精神的なショックで気を失ってるだけだと思うが、女の方が死にかけてるみてぇだ」
そう。ぐったりとした女の顔からは血の気が失せて、脈はやたらと速い。
ミ,,@盆@ミ『……助けるのか?』
ラオウが首を傾げるのに、セルバンテスがまだまだ仔犬のような可愛らしい鳴き声を立てる。
77
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
22:49:58.34 ID:krZwD4HUO
ミ,,@ω@ミ『ドクオお兄ちゃんは助けるに決まってるよパパ!だって僕を助けてくれたんだもん!』
ミ,,@盆@ミ『うむ…あの日あの時あの場所でドクオに会えなかったら、ドクオの治療が無かったら、今頃お前はブタイノシシから受けた傷で死に至ってたろうよ。ドクオには感謝をせねばいけない…』
('A`;)「まだ言ってんのか、そのネタ…いい加減恥ずかしいから止めてくれよな」
ウォォーーーン!
ウォン!ウォン!
俺が顔をしかめると、周りの狼達があちらこちらで吠え始める。
('A`)「…」
言葉は当然解らないが、大体言っている事は分かってしまう。
79
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
22:57:17.07 ID:krZwD4HUO
ミ,,@ω@ミ『「控え目な態度が相変わらず素敵だなドクオさん!」
「彼氏にしたいわね〜」
「漢の鏡だぜ!」って皆言ってるよ!』
('A`;)「狼にモテてもな…」
ウォーーン!!ウォン!
ミ,,@ω@ミ『「うおおお!ドクオ兄さん一生ついていきますううう!」
「硬派テラモエスwww」
「ドクオ(*´д`*)ハァハァ」
「や ら な い か?」
だって☆』
('A`;;)「・・・」
ミ,,@盆@ミ『さて、助けるのか?』
狼でも、人間でも、俺は昔からこういう周りの反応が苦手だ。
立ち往生している俺を見兼ねてか、ラオウが助け船を出してくれた。
82
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
23:05:06.23 ID:krZwD4HUO
('A`)「ああ…放っとく訳にゃいかねぇしな。若い奴二匹ぐらい貸してくれねぇか?流石に俺一人でこいつら二人、家まで連れて帰る根性ねーわ」
ミ,,@盆@ミ『うむ…そうだな。誰か―――…』
ガウガウッ!!
ウオォオォオオオォオオンッ!!!!
ラオウが仲間達を振り向いた時、そこでは大乱闘が繰り広げられていた。
ミ,,@ω@ミ『皆ドクオお兄ちゃんのおうちに「突撃!隣の晩御飯」したいんだってー』
('A`)「やっぱ俺一人で帰ろうかな……」
ミ,,@盆@ミ『ええい静まれ!静まらんかお前達!』
86
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
23:23:02.03 ID:krZwD4HUO
痺れを切らしたような一喝と共に、目にも止まらぬスピードで『風』が動いた。
キャインキャイン!
キュン…ッ
鉤爪が光り太い前脚が空を切り裂き、悲鳴が上がる。
その一瞬後には、乱闘に加わっていた狼達の全てが尾を巻いてラオウの前に頭を垂れていた。ラオウは睨み付ける眼光鋭く、低い戒めのような唸り声を発する。
ミ,,@盆@ミ「ガウウ…グルル…(ニートウルフの品性を下げるような真似は、某が許さん!)」
('A`)「相変わらずすげぇなぁ…」
ミ,,@ω@ミ『パパの「電光石火」久しぶりに見たでしゅー』
セルバンテスの幼い声だけが、やたらに場に不似合いだった。
89
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
23:33:55.42 ID:krZwD4HUO
結局。
ミ.@盆@ミ「ウォンッ」
ξlll´凵M)ξ「……」
ミ¨@盆@ミ「ウォンッ」
( ´ω`)「……」
乱闘に参加せずに堪えていた意気のいい若い二頭の背中に男女を一人ずつ、目付け役としてラオウ自らとその息子セルバンテスが同行する事で場は納まり、俺達は家路を辿り始めた。
嗅覚の鋭い狼達は俺の匂いを辿って迷いも無く家へと足を進めて行く。
ややこしい帰路を見つけるのはたやすく、目印に結び付けたリボンを探す必要も無く俺達はすいすいと道なき道を歩いて行った。
92
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
23:50:43.96 ID:krZwD4HUO
ミ,,@盆@ミ『しかしドクオの人気もたいしたものだな』
ミ,,@ω@ミ『雌狼の間では「彼氏にしたい人間」ランキングでキムタクや亀梨君を押さえてナンバーワンらしいよ』
('A`)「ちょwwwwキムタクに勝ったwwwwwww」
ミ,,@盆@ミ『…セルバンテスよ、キムタクとは何ぞや?』
ミ,,@ω@ミ『パパ古〜い。ママが「浮気するならキムタクかドクオ君がいいわよねぇ」って言ってたよ』
ミ,,@盆@ミ『なッ…サザエ!道理で最近帰りが遅くても何も言わないと…!』
94
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/03(月)
23:53:03.09 ID:krZwD4HUO
ミ,,@ω@ミ『「妻が髪型変えたのにも気付かないへっぽこ旦那なんか要らないわよねぇ、お小遣減らしちゃおっか☆」だって!』
ミ,,@盆@ミ『サザエェェエエエエエエ!!某が婿養子だからって!!!!』
('A`)「……」
何やら家庭内崩壊の危機に陥りつつあるラオウ親子を横目に、俺は狼の背中に揺れる二人の男女を見下ろした。
( ´ω`)
ξlll´凵M)ξ
何故だろう。俺はこいつらを救わなくちゃいけない。
――そんな気がした。
「――…で。」
100
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火)
00:14:20.68 ID:6GeuTDBmO
('A`)「倒れたアンタら家に運んで治療して、今に至るって訳よ。アンタのズタ袋に入ってたのは、地図とコンパス以外役に立たなそうだったから置いて来た。ああ、アンタら運んで来た奴らはラオウが帰しちまったけどな」
ミ,,@盆@ミ『ドクオを見る目に危ういものを感じてな…』
( ^ω^)「やたら説明的で分かりやすいお話ありがとうございましただお」
ξ゚听)ξ「首輪が外れていた訳、狼達が助けてくれた訳、身体の傷が癒えていた訳、貴方とラオウさんが友達だって事、…だいたい分かったわ」
内藤に続いてツンが頷く。食べながらのドクオの話が終わる頃には、全員が食事を終えていた。
疲れてはいるもの、思考もクリアさを取り戻しつつある。
( ^ω^)「ひとつだけ分からない事がありますお」
('A`)「何だ?」
( ^ω^)「何で甲子園の砂があるんですかお?」
('A`)「ああ、俺の心はいつだって甲子園球児だからな」
( ^ω^)「・・・」
104
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火)
00:32:18.93 ID:6GeuTDBmO
('A`)「次はアンタらが話す番じゃねぇの?」
汚れた鍋や食器を纏めながらドクオが言った。
( ^ω^)「あ、…そうですお。でもその前にご馳走さまでしたお!すごく美味しかったですお!」
ξ゚听)ξ「お腹いっぱい…本当にご馳走様」
ミ,,@盆@ミ『うむ…ご馳走になった。某達は基本的に雑食…このようなヘルシーな食事は健康にもいい。何より美味いしな』
ミ,,@ω@ミ『ドクオお兄ちゃんのお手製野菜はいつ食べても美味しいでしゅ!』
('A`*)「あ…?そうか…」
ドクオの頬が僅かに染まる。
107
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/04/04(火)
00:41:17.11 ID:6GeuTDBmO
('A`*)「それなりに苦労してっからな…美味いって言って貰えりゃ、喰われた野菜どもも満足だろうよ」
ドクオの表情薄い顔に、赤みと同じくらい僅かに笑みが浮かんで消えた。
( ^ω^)「……」
――悪い人ではなさそうだ――
( ^ω^)(寧ろ、すごくいい人だお…)
ドクオはきっと、心底からまっさらな親切心で自分達を助けてくれたのだろう。照れたように目を伏せるドクオの目の下には、くっきりと寝不足によるクマが出来ていた。
きっと深夜に帰るなり一晩中見も知らぬ自分達に付きっきりで、看病していたに違いないのだ。
第6部2
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