591CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 18:29:02.39 ID:YjDtfuK2O
『ピー…ッ、ピピッ、ピピッ!』

夜の帳の中、内藤とツンの首輪が鋭く警告音を鳴らす。内藤は慌てて懐中電灯で照らし上げた地図を確かめ、距離を確認してから目の前に聳える都会では見た事も無い木々の枝に、細く引き裂いた包帯を巻き付けた。

( ^ω^)「ここでこの範囲は確認し終えたお…」

内藤は枝を燃やして作った即席の木炭で地図に大きく×印を付けてから、煌々と燃える松明(たいまつ)を持ったツンを振り向いた。

( ^ω^)「ツン、お腹減ったお?食事にしようかお」

593CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 18:41:20.23 ID:YjDtfuK2O
ξ゚听)ξ「ん……」

ツンが内藤の顔を見つめてこくりと頷く。二人は相談してから来た道を少しだけ戻り、昼間探索した古代の城跡で休息を取る事にした。
城とは言っても規模は小さく、風雨に曝されたそれは既にほとんど崩れかけており、苔がむした壁に蔦が巻き付いている。
巣を作った蝙蝠がパタパタと飛び向かう、そんな音を背後に聞きながら二人は、今もなお真水を湧き出す噴水の縁に腰掛けた。

( ^ω^)「水を補給するお」

内藤が背負ったデイパックから水筒を取り出し、軽くなったそれを飲み干してから新たに新鮮な水を詰めた。

596CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 18:50:24.91 ID:YjDtfuK2O
ツンの手から松明を受け取り、代わりに余り質がいいとは言えないビスケットを渡す。

ξ゚听)ξ「…ありがと」

サクッ…

ツンが小さく礼を言って、ビスケットをかじる様子を尻目に、手作りの松明を地面に置くと地図と睨めっこを始める。
内藤は支給された地図の上の広大過ぎる森の範囲を無数の縦線と横線で区切り、幾つかのブロックに分けていた。効率良く探索を進めるためだ。
最南に位置する現在地には内藤の手による城のマークが描かれ、既に×印が付いている。

一日歩き回れども、収穫は無かった。

597CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 19:00:02.41 ID:YjDtfuK2O
( ^ω^)「これだけ広いんだから一日で見つかるなんて有り得ないお。まだ後二日もあるんだお、今はしっかり体力回復に努めるお!」

内藤は前向きに自分に言い聞かせながら地図を畳んでベルトに挟み、自分も簡素過ぎる夕食に手を伸ばした。

幾つかのブロックは既に探索済みとは言え、全体に比べると三分の一にも満たない。
そもそもこの森にトニー=ブラウンが居る確証など無いし、見つけたとしてもどうやって村に戻せばいいのかなど丸きり考えてはいない。

( ^ω^)(僕が頑張らなきゃ)

内藤はその一事に、必死過ぎたのかもしれない。
大事な事に気付いていなかった。

598CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 19:07:36.32 ID:YjDtfuK2O
ξ*--)ξ「ん………」

不意に、ツンが内藤の肩に甘えるように凭れてきた。その目がゆっくりと閉じられる。

(*^ω^)「うはwwwwこんな時にセクロスフラグktkrwwwwwwww」

普段はなかなか見る事の出来ないツンの甘えた行為に、こんな事態でも喜びは抑え切れず内藤は笑みを浮かべながら彼女の巻き毛を撫でる。続いて、頬を。



( ;゚ω゚)



ツンの身体は、異常なほどに熱かった。

603CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 19:20:06.13 ID:YjDtfuK2O
( ;^ω^)「つ、ツン!」

内藤は慌ててツンの額に手を触れる。じわりと滲んだ汗は冷たいのに、綺麗な額は焼けるようだった。
理由は分からない。身重の身体に疲労が祟ったのかもしれないし、傷口から雑菌が入っていたのかもしれない。

ただ、疑いようも無くツンは発熱している。

内藤はおろおろと一枚切りのタオルを冷えた水に浸し、ツンの顔に触れさせた。

(; ^ω^)「ツン、いつからそんな…ま、待ってるお!今、なんか探すお…!」

ξlll--)ξ「う……大丈夫…ちょっと疲れただけなんだから、心配しないでよね……」

デイパックを漁り始めた内藤の腕を掴み、ツンがいつもの調子を弱々しく返す。その手から食べかけのビスケットが、ぽとりと地面に零れた。

604CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 19:28:07.69 ID:YjDtfuK2O
急にここまで熱が上がるとは考えられない。
ツンの事だ。恐らく内藤に余計な心配をかけたくない余り、昼間からずっと何食わぬ顔で堪えていたのだろう。

( ;^ω^)「くそっ…!何で何も無いんだお!」

傷薬は単なる擦り傷用の塗り薬であり、発熱に効くはずもない。

バシッ
どうしようも無くなった内藤がデイパックをたたき付けるのを見て、ツンは乱れた息に肩を震わせながら笑って見せた。

ξlll゚ー゚)ξ「物に当たるんじゃないわよ…疲れただけって言ったでしょ。…少し休めば、また歩けるわ…」

606CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 19:36:00.42 ID:YjDtfuK2O
( ^ω^)「ツン…」

どうして気付かなかったんだろうか。
ツンが昼間から、水をやけに欲しがっていた事。
口数が少なくなっていた事。
必ず内藤の後ろを歩き、姿を見せないようにしていた事。

そんな事が今更、思い出されてくる。

( ^ω^)「僕は…僕は馬鹿だお………」

内藤はポツリと呟く。
トニーを捜す事に集中する余り、妻の異変にも気付いてやれなかった自分をひどく呪った。
一番大事なものは、ツンなのに。

( ;ω;)「ツン、ごめんお………」

ツンの額の上に載せられた冷えたタオルが、みるみるうちに熱くなっていく。涙脆い内藤の目が潤み始めた時、

バシン。

ツンのビンタが弾けた。

608CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 19:44:50.43 ID:YjDtfuK2O
(#);ω;)「ぶもおっ!!!」

渾身のビンタに思わず頬を押さえる内藤の胸倉を、間髪入れずにツンが掴み上げて喝を飛ばす。

ξ゚听)ξ「うっとーしいわねっ!!男がめそめそ泣いてんじゃないわよ!
そんな暇があったら水の一杯でも汲んで早く治るように協力してちょうだい!」

( ^ω^)「!!!!」

ツンの気迫と懐かしくすら感じられる声の調子に、内藤の涙がピタリと止んだ。

ξ゚听)ξ「私が大丈夫だって言ったら大丈夫なの!!わかった!?」

( ;^ω^)「は、はい!はいだお!」

ξ゚听)ξ「「はい」は一回!!」

(;^ω^)「はいお!」

610CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 20:07:21.87 ID:YjDtfuK2O
内藤の勢いのいい返事を聞くと、ツンはニッと笑って手を放した。
そのまま疲れたように目をつむり、また荒い呼吸に胸を波打たせる。今のでかなりの無理をしたのだろう。先ほどより息のペースが早い気がした。

( ^ω^)(泣いてられないお…こんな時こそツンは僕が支えてやるんだお)

水筒の水を少しずつツンに含ませてやりながら、内藤は気合いを入れ直すように強く唇を引き結んだ。

ξlll--)ξ「はぁ……はぁ……」

ツンは辛そうに眉根を寄せて、ぐったりしている。

( ^ω^)(今日はここまで…か)

こんな状態のツンをこれ以上探索に付き合わせる訳には行かないし、ましてやこんな危険な場所にツン一人を残して自分のみが探索に向かうなど論外だ。

正直時間は惜しい。
だが内藤は、今夜は一晩ツンのために休養を取る事に決めた。

611CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 20:13:45.10 ID:YjDtfuK2O
乱闘によりあちらこちら破れてしまった上着を脱ぎ、ツンの肩に被せてやる。
城内に入る事も考えたが、あんなジメジメと湿った場所は何となく身体に良くなさそうな気もした。

( ^ω^)(どこか二人で休めるような木陰を探すお)

そう思い内藤が苦心しながらツンの身体を抱え、片手に松明を持って立ち上がった時、

ピチャ、…ピチャ。

何かが背後で水を舐めている音が不気味に耳に滑り込んで来た。


(;^ω^)「・・・」

613CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 20:24:21.51 ID:YjDtfuK2O
オオオ……オーン………

何処からともなく、高く張り詰めた遠吠えが、こだまして消えて行く。

( ;^ω^)「ちょwwwまさかwwwwww」

ザッ、ザッ、ザッ、ザッ

ピチャ、ピチャ、ピチャ、ピチャ。

何かが集まる気配がして、水を弾くような音は増えていく。

(;;^ω^)「・・・・・・・・・」

かたかたと内藤の膝が震え出す。まさか、まさか、まさか、まさか。
違いますように、違いますように、“奴ら”じゃありませんように。

バッ!

覚悟を決めて、振り向いた。



噴水に鼻面を突っ込んで水を貪る灰色の獣達の、無数の黄金の目がギラギラと闇の中に輝いて、内藤達を見返した。

616CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 20:36:03.91 ID:YjDtfuK2O
(;;;;゚ω゚)「りきいしとおる!!wtpgjtdpg.tっあひゃ@ふじこ!!!!!」

内藤の背中を寒気が駆け登る。大型のニートウルフ達は、ピタリと動きを止めて、自分達の縄張りに侵入した見慣れない人間の様子を窺うように金の視線をくれている。

ウウ………

一際大きな一頭が、灰色の毛並みをフサフサと揺らしながらゆっくりと逞しい足を踏み出した。
屈強そうな顎から鋭い牙が覗き、ぼたりぼたり、とよだれのように飲んだばかりの水が垂れ落ちる。
それに倣うように他の狼たちが、低い唸りを発しながらしなやかな動きで周囲に周り始めた。


(;;^ω^)「ちょwwww待っwwwwテラヤバスwwww」

620CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 20:52:13.99 ID:YjDtfuK2O
(;;^ω^)「こ、これは死ぬお…………」

内藤が震えている合間にも、ニートウルフ達はじわりじわりと間合いを詰めてくる。
その動きは一切無駄が無い美しい野性のものであり、こんな状況で無ければ内藤は見とれていただろう。

ウウウ……

(;;^ω^)「に、逃げるしかないお…!」

松明とツン、それにデイパックを抱えているため、得意のブーンは出来ない。
その上にこの疲労だ。逃げ切れる自信は無い。

だが、ここでみすみす喰われる訳にはいかない…!

(;;^ω^)「全国のVIPPER、僕に力を貸してくれお!!!!!!1111」

内藤は重い足に鞭を打ち、ツンを背中に抱え直すと全速力で狼の群れから離れ夜の森を駆け抜け始めた!

622以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/03/28(火) 20:54:01.01 ID:dN2Wm8/C0
よし力を貸すぜ!
\(^o^)/
638CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 21:11:16.74 ID:YjDtfuK2O
グルル…ガウガウッ!

背後で狼達が、吠える。
全速力とは言えずとも、必死で走る内藤の元に全国のVIPPER約一名の力が集まって来た!

(;;^ω^)「ちょwww>>622テラトンクスwwwwww」

………

ニートウルフの頭は暫く内藤の背中を睨み付けて溜めを作り、そして一気に勝手知ったる森の中を駆け抜けて行く。
小柄なニ頭がそれに続き、次いで他の若い狼達がそれとは別の方向から分散して内藤達を追い掛けていく。
走る内藤の額からは汗が流れ、小枝が掠めた頬からは薄い血が滲んだ。

(;;^ω^)「っひ、ひぃ…ブーンさえ使えれば……!くそおーーーーーー!!!!!11」

ツンの苦しげな呼吸が耳の後ろで囁くように響く。
走り抜ける狼の美しい足音を耳にして、内藤は歯軋りしながら力の限りに足を速めた。

648CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 21:35:52.29 ID:YjDtfuK2O
生温い夜風に、さわさわと木々が揺れる。倒壊したての白の祠に人の気配は無かったが、ふとそれを打ち破るように足音がした。


(*゚ー゚)「…トニー様、すみません、花に元気が無くて」

胸の前に少しばかり色艶の無い花束を抱えたしぃは、階段の前にそれを置いて力無くひざまずいた。
そして指を組んで目を閉じ、熱心に祈り始める。

(*゚ー゚)「トニー様…お怒りをお沈めくださいませ。この村は…村は、貴方様を必要としております…」

もう、今日が終わってしまう。
疲れた顔で帰って来た捜索隊の面々からは、良い報告は聞けなかった。

650CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 21:46:33.19 ID:YjDtfuK2O
今日が終わり、明日になって、更に明日が終わったらもう最後の日で有る。
荒巻に三日と言う期限を聞かされたせいか、何故だか訳も無く、それを過ぎるともう二度とトニーには会えない予感がして…それが怖かった。

(*゚ー゚)「トニー様…私達をお救いください。どうか、どうか…」

震える肩をそのままに、しぃは泣き腫らした瞼を押さえる。

金色の髪をした尊く美しい人は今もなおこの目に焼き付いていると言うのに、その澄んだ声も常人とは掛け離れた優雅な身のこなしも今だ記憶に焼き付いているというのに、

その人はいない。

(*゚ー゚)「失うのは…夫だけで十分です……」

651CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 21:55:50.54 ID:YjDtfuK2O
自分は、支えが無ければ生きていけない女だ―――

しぃはそう自覚していた。

幼い頃は家族。家族が獣に喰われた後はモララー。モララー亡き後はマターリやドクオが。
そして、絶対的な安心感を抱かせる神、トニー=ブラウン。
いかなる時も傍に誰かが居なくては、すぐに崩れてしまいそうになる。

しぃは弱い女だった。

(*゚ー゚)「………」

ザッ…

祈りを終えて立ち上がろうとした時、余り聞きたくない声がしぃを捕まえた。

/ ,'3「こんな夜更けに散歩かね、レディ・しぃ―――」

(*゚ー゚)「荒巻さん…こんばんは。でももう失礼しますわ、ごきげんよう」

652CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 22:02:54.87 ID:YjDtfuK2O
/ ,'3「まあ待ちたまえ。そんな毛嫌いしなくてもいいじゃないか」

(*゚ー゚)「毛嫌いしてなどおりませんわ。ただ用事を済ませ終えただけですの、ごめん遊ばせ」

/ ,'3「ほっほっほ…」

表情を硬くするしぃを前にして、荒巻が老成した笑いを喉の奥で鳴らしながらステッキを付きつつ歩いて来た。
言う。

/ ,'3「トニー=ブラウンへの祈願かね」

(#゚ー゚)「!言葉に気を付けなさってください!!」

しぃがヒステリックに声を高めた。荒巻が驚いたように肩を竦めて、失敬、とばかりシルクハットを傾ける。

/ ,'3「トニー=ブラウン“様”への祈願かね」

653CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 22:10:49.00 ID:YjDtfuK2O
(*゚ー゚)「ええ…」

息を沈めながらしぃが顔を背けた。美女が怒ると凄まじいものがある。
だが荒巻は意に介さないように、口元に笑みを浮かべたままだ。


/ ,'3(私を怒鳴り付ける女とはまた珍しいものだ…)

/ ,'3「レディ・しぃ」

荒巻がその老獪な口ぶりで以って、口火を切った。

/ ,'3「気を落ち着けて聞きたまえ。何も君を怒らせようと言う訳じゃないのさ。もし、だ。万が一の話だが…」

(*゚ー゚)「言いたい事があるのなら早くおっしゃってくださいませ」

クッションを置く荒巻の話し方に焦れたようにしぃが眉を吊り上げる。

654CATS ◆STRAY/tOkM [更新は明日までです。] :2006/03/28(火) 22:21:30.95 ID:YjDtfuK2O
/ ,'3「ほう、言っていいのかね」

荒巻は皮肉に口端を引き上げてから、猫を撫でるような優しい声で言った。

/ ,'3「もしトニー様が村にお帰りになられなかった際は、君はどうするのかね?」

(lll゚ー゚)「―――――ッ」

突き付けられた問いに、しぃの顔色が蒼白になるのを荒巻は見逃さなかった。
一歩、二歩。朝方のようなトラブルが起きないかと足元に気を使いながら荒巻は美貌の未亡人に距離を詰める。

残酷なまでに優しく笑みかけた。

/ ,'3「どうするのかね?」

655CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 22:35:42.42 ID:YjDtfuK2O
しぃは答えない。
荒巻がおもむろにジリン、とベルを鳴らす。

――スタッ!

(´_ゝ`)(´<_`)「お呼びですかオーナー(会長)」
/ ,'3「ほっほっほ…」

5秒で現れた流石ブラザーズに指示を出し、弟者の手からファイルを受け取ると荒巻は兄弟達を退がらせ、俯いて震えているしぃの隣に歩み寄った。

パサ。

荒巻が高級ペンライトを胸ポケットから取り出し、しぃの目の前に広げたファイルを照らす。

(;゚ー゚)「い、嫌……嫌ああっ!」

それを確認したしぃが悲鳴を上げて、反射的に荒巻の手からファイルをたたき落とした。

659CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 22:46:29.70 ID:YjDtfuK2O
/ ,'3「おやおや、レディに相応しくない振る舞いだ…」

(lll゚ー゚)「や……いやぁ……」

荒巻は身を屈めて、ファイルから散らばった写真の一枚を取った。
荒涼とした不毛の大地に、薄汚く寂れた小さな家屋が数軒並んでいる。
もう一枚。
痩せた馬に、枯れかけた花。
もう一枚。
よどんだ空と黒い雨。

/ ,'3「いやいや、今のこの村からは信じられない過去じゃあないか。調べさせてみて驚いたよ」

荒巻は再びしぃにそれを見せ付ける。しぃは怯えたように顔を覆った。

(´<_`)「会長はSだな、兄者」
(´_ゝ`)「俺はああ見えてM気味だと思うが?弟者」

661CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 23:00:34.81 ID:YjDtfuK2O
(ノー\;)「止めて…ください…止めて……」

/ ,'3「たった二年。この荒れた村をここまでの良村に変えた神の力はやはり偉大だねぇ、レディ・しぃ?だが今や彼はいない」

(ノー\;)「荒巻様…どうかお止めになって…」

/ ,'3「そしてトニー様が居なくなった今、彼に力を与えられた万物は全て退化していっている。証拠に、レディ・しぃ。
神に捧げるその花束、咲き誇る貴女の庭から詰まれた花にしてはえらく色の悪い花じゃあないかね」

(;゚ー゚)「お止めになっ…てぇ…」

しぃの身体がカタカタと小刻みに揺れる。

/ ,'3「意味が解るかね。彼が戻らなければ、君はまたこの写真のような環境の中、その美しい身を沈ませる事になるの

(##゚ー゚)「止めろっつってんでしょうが!!!」

ドグォッ!

荒巻が2メートルほど吹っ飛んだ。

665CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 23:13:57.66 ID:YjDtfuK2O
(´<_`;)「か、会長―――――――ッ!!」

慌てて駆け寄った弟者の手を、しぃの強烈なジャブを喰らった腹を抱えてうずくまった荒巻がパシンと跳ね退けた。
よろよろと起き上がりながら、その唇が不気味に歪む。そう、至極嬉しそうに。

/* ,'3 「ふ…ふふふ…父さんにも殴たれた事無いのに…」

(´<_`)「・・・」
(´_ゝ`)「ほらMだろう、弟者」

(#゚ー゚)「私、もう失礼致しますわ!」

憤然と背中を向けるしぃの細い手首を掴み、荒巻は老人にふさわしくない腕力で己の方に引き寄せる。
囁いた。

/ ,'3「私なら、アンタを寂れた村に埋もれさせるような真似はしないが?」

671CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 23:25:46.36 ID:YjDtfuK2O
(*゚ー゚)「まだおっしゃいますの…」

しぃが苛立ったように振り向いて、怒りのために青白く染まった顔に妖艶極まる笑みを浮かべ、荒巻の枯れた頬をやんわりと撫でる。

(#゚ー゚)「私、トニー様の帰還を信じているんです…信じるしか道の無いかよわい女に、もうそんな意地悪な事おっしゃらないで下さいますわよね?」

/*,'3「うはwwwwおkwww把握wwww」

(*゚ー゚)「いい子ね…」

魅入られたように勢いよく首を振る荒巻の頬をキュッとつねってから、小悪魔的な笑みと共に再びしぃが背を向けようとする。

(´_ゝ`)(´<_`)「流石だな、人妻」

Σ /; ,'3「!!!!」

流石ブラザーズの哀れむような視線に気付いた荒巻が、ハッとして居住まいを正す。

682CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 23:43:06.14 ID:YjDtfuK2O
腹の痛みに咳込みながらも、常の堂々たる声で、言う。

/ ,'3「だが予言して置こう。アンタはいつか、自分から私に泣き付いて来る事になるさ。
トニー様が戻られなかった場合…ね」

(*゚ー゚)「……」

荒巻はスーツから最高級の葉巻を取り出し、流麗な手つきでジッポを鳴らす。
一瞬だが。しぃの瞳が、揺れた。だが直ぐに唇を噛み締めると、静かに目を伏せた。

/ ,'3「ほっほっほ…」

しぃは荒巻の方へとすたすたと足を進めると、目の前で立ち止まった。

バシィ!
荒巻の首が90度回転する。

(;´_ゝ`)´<_`;)「ちょwwwwwwww」

(#゚ー゚)「……あなた、うざい」

686CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火) 23:54:11.64 ID:YjDtfuK2O
/* ,'3「!」

ショックを受けているのかどうか、くっきりと頬に浮かんだ手形を押さえて硬直する荒巻をキッとその美しい目で睨み付けて、しぃが押し殺した声で吐き捨てた。

(*゚ー゚)「…余り女をナメないで下さいな。失礼致します」

くるりと背を向けると悠然たる足取りで、帰路を辿り始める。
荒巻は呆然と立ち尽くしたまま動かない。

(;´_ゝ`)´<_`;)「か、会長……」

/* ,'3「ふっ…はは……くはははははははははははははははははッ!!!ふははははははははくぁwせdrftgyふじこlp」


(;´_ゝ`)´<_`;)「ちょwwww壊れたwwwwwwww」

689CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/29(水) 00:07:16.11 ID:K5DJsZQYO
/* ,'3「いや素晴らしい、実に素晴らしい女では無いか。欲しい!是非とも手に入れたいものだよ、なぁ、流石ブラザーズくん?」

(´_>`)「いや別に…」
(´_ゝ`)「自分虹専門なんで」

ひとしきり興奮して落ち着いたのか、荒巻は打たれた頬を撫でながら機嫌良くしぃの辿っていった道を行き始める。
その顔は、常の冷静な老紳士の表情に戻っていた。

/ ,'3「捜索隊は向かっておるのかね?」

(´_>`)「はい、順調です。恐らく未明辺りには到着するかと」

/ ,'3「…何が何でも探しだせ!いいな。
トニーが帰ればあの女をモノに出来るように願を掛ければいい。帰らなくても…あの女は私のものだ。」

(´_>`)「……はい」

690CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/29(水) 00:16:49.54 ID:K5DJsZQYO
/ ,'3「…万が一この足を失うような事があれば……せめてあの女だけでも、連れて帰る」

(´_ゝ`)「会長…」

ゆったりと先を行く荒巻の背を追いながら呟いた兄者の声を拾って、荒巻は肩越しに振り返り細い目を更に細くする。

/ ,'3「事業家と言うものは、何より損失を嫌うのさ。何かを失うなら、代わりの何かを得ねばならない………さあ、行こうか」

はい。

淡々と述べて微笑する荒巻の促しに応じて、流石ブラザーズは立ち止まりかけた足をまた進める。

(´_ゝ`)「…」

ピタリ、と兄者が動きを止め、白の祠を振り返った。

692CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/29(水) 00:27:09.71 ID:K5DJsZQYO
(´<_`)「どうした?兄者」

(´_ゝ`)「いや…微かだが…」

空気をえり分けるようにして兄者が鼻をひくつかせていると、荒巻が不思議そうに振り返った。

/ ,'3「流石君?どうしたのかね。早く帰ろうじゃないか」

(´<_`)「失礼しました。…行くぞ、兄者」

荒巻の機嫌を損ねるのを恐れた弟者が、兄者の袖を引いて先を急がせる。

(´_ゝ`)「あ、ああ…承知した弟者」

ハッとしたように兄者は足を繰り出しながら、言いかけた言葉を飲み込んだ。

『微かだが、モナー社のSR51タイプ爆薬の匂いがしたような気がした』

(´_ゝ`)「俺には関係ないか…」

一人言は小さく、足音に掻き消される。三人は宿場に向かい、就寝準備を整えて眠りに就く。
風が強くなって来た。

693CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/29(水) 00:39:37.08 ID:K5DJsZQYO
ざざ…ざあ…っ

強い風が暗い森全体を震わせた。木葉が舞い散り、夜行性の鳥たちが飛び立つ。

『ピーッ!ピーーッ!ピーーッ!ピーーッ!』

内藤とツンの首輪が、限界範囲を警告してけたたましく鳴り響いていた。

(;;^ω^)「ぼぼぼぼ…僕たちは喰っても美味く無いお!で、ででで…でもどっちかと言うとツンより僕の方が肉付きもいいし美味いと思うんだな!」

ミ,,@盆@ミ「グルル………」

( ;^ω^)「あっち行くお!あっち行けお!あっち行って下さいお!」

ブンッ。
内藤が松明を振り回し、その火を避けるように四方周囲を取り囲んだニートウルフ達が一瞬だけ飛びのく。が、直ぐに元の位地に戻っては地響きのような唸り声を上げてよだれを垂らす。

694CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/29(水) 00:49:53.43 ID:K5DJsZQYO
背中の上のツンは、もはら言葉を放つ気力も、いや、意識すら無いらしくぐったりと内藤に凭れている。

無我夢中で適当に走ったのが悪かったのか、森の地理を知り尽くした狼を相手にしたのが悪かったのか、運悪く内藤たちはプギャに設定された範囲ギリギリまで狼達に追い込まれてしまった。

( ;^ω^)「お願いだからどっか行けだおー!!!!」

内藤の足も限界だった。
力が抜けてがくがくと震える膝を地面に付いて、赤々と燃える松明をニートウルフ達に向けて威嚇する。さすがの森の帝王たちも炎には弱いのか手出しはして来ないもの、諦める気配は無い。
膠着状態が続いていた。

695CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/29(水) 01:01:32.65 ID:K5DJsZQYO
風が強い。先端に油を染み込ませている訳でも無い余りにもインスタント過ぎる松明は、次第に頼りなく炎を揺らして行った。
それと平行して狼達の目の輝きが強くなる。

ミ,,@盆@ミ「ウーーー………」

群れの先頭に立って内藤達を静かに睨む、どうやらリーダーらしい大柄な狼が少し首を傾けた。そして、天を向く。

オオオーーー……ン…

何とも言えない音色でビブラートの利いた遠吠えを放った瞬間、周りの狼達が一斉に内藤に襲い掛かった。

(;;^ω^)「うぎゃあああああああああああああ!!!!!1111」

698CATS ◆STRAY/tOkM [人いるかい?(´・ω・`)] :2006/03/29(水) 01:13:38.37 ID:K5DJsZQYO
ミ,,@盆@ミ「ガアウッ!グルルル……ッ!!」

(;;^ω^)「ッひ!ひいいッ!止めるお!止めるおおおおお…!」

ニートウルフの鋼鉄のように鋭い鉤爪が内藤の腕を掠める。

(;;゚ω゚)「うぎゃあああああああああ!!!」

ごろごろと松明が転がり、その時吹いた一陣の風が燻る火を吹き消して闇を作った。

( ;^ω^)「あ…!火が消えちゃったお……!!」

ミ,,@盆@ミ「ウォンッ!!」

内藤の二の腕からビシュッ!と鮮血が吹き出て、生臭い匂いを喜ぶように小柄な狼が舌なめずりしながら飛び掛かる。それがツンの柔肌を狙っているのを知り、内藤は咄嗟に自分の身体の下にツンを敷いて上から覆いかぶさった。

(;;^ω^)「喰うなら僕を喰えだおーーーーーー!!!!!!!」

703CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/29(水) 01:24:29.87 ID:K5DJsZQYO
ミ,,@盆@ミ「があうっ!」
ミ,,@盆@ミ「ウゥ…」

ミ,,@盆@ミ「ウォンッ」

自分達を束縛する炎が消え去ると、狼達は楽しそうに身を丸めた内藤の上を飛び交い始める。そう、まるで遊戯のような軽やかさだ。時折その爪や屈強な腕が内藤の背や頭を通り過ぎ、浅い傷を生んで行く。
内藤の頭を今もまた、熱い痛みが走って過ぎた。

(#;ω;)(父ちゃん母ちゃん僕はもう駄目だお)

ビシュッ、ビリビリッ

ミ,,@盆@ミ「ウオォン!ウオンッ!」

(#;ω;)(もっと親孝行したかったお。孫の顔を見せてあげたかったお…)

人間死期が近づくと過去を思い出すと言うのは本当らしい。内藤の頭を走馬灯のように思い出が流れていく。

706CATS ◆STRAY/tOkM [よかた(´・ω・`)] :2006/03/29(水) 01:36:35.48 ID:K5DJsZQYO
小学校の駆けっこで一等賞になって、母ちゃんに大きなハンバーグを作って貰った事。
算数のテストが一桁点数で、こっそり紙飛行機にして飛ばしたらそれをツンに拾われた事。
点数の低さに呆れたツンにみっちり扱かれ、次のテストでは87点を取れた事。
初めて夏の感謝祭にツンを誘った事。
恐る恐る握った手を、ツンが握り返してくれた事。
二人で照れながら家に帰り、門の前でしたキスの感触の事。
勇気を出して告白した時のツンの顔はさくらんぼみたいに真っ赤だった事。
小さいけれどささやかで幸せな結婚式を挙げた時、花嫁衣装のツンが涙が出るほど綺麗だった事。
初めて一緒のベッドに入った時のツンの言葉の事。
子供が出来たと知った時のツンの戸惑いがちな柔らかい笑顔の事。
何度も喧嘩した事。
何度も仲直りした事。
いつだって傍にいてくれた事。
いつだって傍にいた事。


( ;ω;)「ツン………」

709CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/29(水) 01:48:44.83 ID:K5DJsZQYO
内藤は身の下に臥せたツンの髪を撫でた。柔らかく撫でた。
ポタリ、と涙が零れてツンの汚れた頬を濡らす。

( ;ω;)「ずっと大好きだお…」

狼達の攻撃がひどくなった。内藤は再びツンの上に隙間無く覆いかぶさり、ギュッと強く抱きしめる。

オオオーーーー…ン……

ミ,,@盆@ミ「ウウウ…」
ミ,,@盆@ミ「!」

リーダー格の狼の唸り声に、ピタリと他の狼の動きが止まり、ばらばらと内藤達から退いた。
ニートウルフ達の注目を浴びながら、重々しい足取りでその狼は内藤に向かって行く。

ウォオオーーー…ン……

そしてまた天を仰ぎ一声吠えるや黄金の目を狭め、やおらその獰猛な口を大きく開き内藤の背中に喰らい付くと、生えそろった鋭い牙で以って全ての繊維を引き千切った。


【第5部完】

第6部
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