405
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
17:16:21.84 ID:+P0t7417O
まっさらなオレンジはどこにある?
『―――ミロリカは、ね』
『まっさらなオレンジ色の花びらを持つのよ。花言葉は「夢見る幸福」。
私はまだ見た事がないんだけれど、お祖母ちゃんの話ではそれこそ夢みたいに綺麗な花を咲かせるらしいの』
………。
『でも、ミロリカはとても繊細で、育てにくい花。たいていは咲く前に萎れてしまうんだけれどね』
『…ねぇ、貴方はまっさらなオレンジって見た事ある?』
406
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
17:22:16.76 ID:+P0t7417O
『まっさらなオレンジってどんな感じなのかしら?』
『熟したオレンジみたいに明るい色かしら?夕焼けみたいに燃えるのかしら?触れるとどんな感じがするのかしら』
アンタは本当に花が好きだな。
『一度だけでいいの。……見てみたいなぁ、ミロリカ』
俺はそんなアンタが好きだ。
『ううん、わかってるの。こんな荒れ地じゃ生えやしないわよね。これ見て。この間植えたヒツバキなんだけど、もう――…』
アンタが好きだ。
『お世話頑張ったのにな、ふふ。んー、でも、次にまた頑張ればいいわよね!ねぇ、土運びを手伝ってくれる?美味しいお茶をご馳走するから』
アンタが好きだ。
(*゚ー゚)『ほら、行きましょうドクオくん』
―――――ザワザワッ…
407
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
17:30:53.06 ID:+P0t7417O
('A`)「ん………」
切り立った岩盤に凭れさせていた上半身を起こして、ドクオは目をしょぼつかせた。大欠伸をして、眠気で重くなった頭を振ると少しだけスッキリした。
いつの間に眠ってしまったんだろうか。休憩のつもりがえらい事になってしまった。
('A`)「いてて…あー、身体痛ぇ。立ったまま寝るなんざ俺も器用なもんだぜ」
自分自身に呆れたように呟いてドクオは空を眺め、自分の腹部の弾力を確かめるように触る。
('A`)「…4時か。結構寝ちまったな」
ドクオは時計を持っていない。だから自分の身体のリズムに頼っている。
409
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
17:43:11.60 ID:+P0t7417O
ゴトン、ごとごと。
畑仕事用の鋤や鍬を元の位置に戻してからタオルで汚れた腕を拭き、ドクオは畑から離れると、壁に掘られたちょっとした洞穴の中に入って行った。
('A`)「ふう…」
手慣れた手つきで、中央に置かれた手製の組み木に火を付ける。
よく乾かしたそれは、パチパチと音を立てて暗い洞穴内に明かりと熱を提供してくれた。
洞穴の中には、たいした物こそ無いもの生活用品が無造作に転がっている。包丁やまな板、食器などなど。
そう、この洞穴はドクオが作った自分の住居だった。
('A`)「もう残り少ないな…今日、かかってるといいんだけど」
一人呟きながら、ドクオは麻袋を開けて中からトラウサギの干物を取り出した。
411
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
17:52:30.87 ID:+P0t7417O
洞穴内にいい匂いが緩やかに漂う。
一枚ずつ丁寧に火であぶっては、ドクオは別の小さな袋にそれを詰めていき、ある程度入れるとそれを腰に結び付けた。
('A`)「こんなもんかね」
あぶった一枚をかじっていると、ドクオの視界の隅で何か黒い物がぴょんっと跳ねた。
■・ω・■「みゃー」
('A`)「お。お前また来たのかぁ?」
■*・ω・■「みゃーみゃー、みゃーみゃー」
ヌコイヌの仔犬は、人見知りせずに元気に跳ねてくると、ドクオの前でお座りしてちぎれんばかりに尻尾を振る。
('A`)「ああ、これが欲しいんだな。ほら、やるよ」
412
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
18:03:33.61 ID:+P0t7417O
■*・ω・■「うみゃー!」
('A`)「おまww焦るな焦るなってwwwww」
ドクオの差し出したジャーキーに喜ぶ余り指にまで食いついてくるヌコイヌの背中を撫でる。ドクオの元にはこんな風に動物が遊びに来る事が多い。
('A`)「暗くなる前に出掛けるかなぁ…別に暗くなってからでもいいけど」
幼い頃からドクオは異常に夜目が効いた。真っ暗な場所でも、昼間のように物がハッキリと見えるのだ。
ぶつぶつ呟いくドクオに腹が膨れて満足したのか、ヌコイヌが「遊ぼう」と身体をぶつけてきた。
('A`)「んー、また今度な?ちょっと用があるんだよ」
ドクオは優しくヌコイヌの頭を撫でてやる。
413
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
18:11:42.11 ID:+P0t7417O
■´・ω・■「みゃーう……」
('A`)「よっこらしょ」
立ち上がり、洞穴の隅にある樽を覗き込むドクオの足に擦りつくヌコイヌを踏まないように気を付けながら、ドクオは大きな杓子で樽の中の堆肥を掬い外に出た。
今日こそは大丈夫かもしれない。今日こそは。
ドクオの目に活気が帯びる。
農作物の植わった畑を通り過ぎ、住居の裏側へ回る。
そして、ガックリと肩を落とした。
('A`)「……まだ咲きやしねぇか」
414
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
18:22:00.66 ID:+P0t7417O
そこだけ世界が違ったように、荒野の中に鮮やかな花畑が出来ていた。
('A`)「ま、仕方ねーわな。気長に行くしかねぇ」
ドクオは暫く頭を垂れてから、気を取り直したようにしゃがみこみ、改良に改良を重ねた堆肥を土に被せていく。
一つの蕾の前では、非常に念入りに。
『ミロリカ』
その花の根本のプレートには、覚えたての子供が書いたような下手くそな字で、一字一字ハッキリとそう刻まれている。
('A`)「まだまだ本物のミロリカにゃ遠い、か…」
ドクオは傍らに咲くオレンジ色の花に触れる。以前内藤夫婦に預けたものと同じ花。
ただ、その花は少しくすんだオレンジ色で、花びらの形はドクオが伝え聞く形とは違う。
('A`)「まだまだ改良が必要だな」
415
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
18:34:24.52 ID:+P0t7417O
('A`)「そういやアイツら、ちゃんと渡してくれたんかな…」
水を適量与え、葉にくっついた青虫を払ってから、ドクオは腰を上げた。
なんだかんだしているうちに体内時計が5時を告げ、まったく同時に村の時計台が5回鐘を鳴らす。
('A`)「トラウサギがかかってるかどうか確かめる時間考えると、そろそろ出なきゃやべーかな」
今回ドクオが求めるハッスル草は、葉が開く数時間のうちに摘み取ってすり潰さないと効果を発揮しないという厄介な性質を備えた植物だった。
だがその分効果は素晴らしく、少量で農作物の成長をグンと促進させる事が出来るのだ。
ハッスル草がの葉が開くのは、21時から0時まで。
往復する時間や目的地までの道程を考えると、早めの出発が望ましい。
416
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
18:49:33.50 ID:+P0t7417O
('A`)「んじゃま、行くか…」
ひとしきりに花の世話を終えたドクオが背中を翻し、探検用の荷物を置いている洞穴へぶらぶらと帰ろうとした時だった。
――シュビッ!
Σ■・ω・■「み゙ゅっ!!!きゃんきゃん!きゃんきゃん!」
何かが空を切る音がして、続いて鈍い音が聞こえた。
鈍い音の方を振り向くと、後を着いて来てふんふんと花の匂いを嗅いでいたヌコイヌが、怯えたように尻尾を丸めて一目散に木々の中へと逃げ出していく。
('A`)「あ?どうし……――――――ッ!」
ビシュッ!
ドクオの頬をかすめて、熱い矢が走るように勢いよく石が飛んで来た。
ゴツンッ!
('A`;)「痛ぇっ!」
続いてドクオの背中に衝撃が走る。
ころころと、ドクオの背中にぶつかった石は足元まで無機質な音を立てて転がって来た。
(;'A`)「………」
ドクオは身を緊張させて、石が飛んで来た方を振り返った。
423
:CATS ◆STRAY/tOkM [PC使いてー]
:2006/03/27(月) 20:08:31.24 ID:+P0t7417O
(`Σ´)「チッ、頭狙ったのに外れちまった。疫病神が……」
二人の若者が憎々しげにドクオを睨んで立っていた。うち一人の手の上では、石が獲物を狙うように跳ねている。
(゜<_゜)「あーホントこの罰当たり野郎、見ただけで吐き気がするぜ」
歯に衣を着せない悪口雑言を浴びながら、ドクオは身の緊張を解いて無表情に彼等を見返した。やる気なく乱れた頭を掻く。
('A`)「シグマグチとコッチミロヨか。何の用だよ。俺には関わり持ちたくねーんじゃなかったのか?」
426
:CATS
◆STRAY/tOkM [おまいらのツボがわからないお(;^ω^)]
:2006/03/27(月) 20:19:40.00 ID:+P0t7417O
(`Σ´)「は?俺らが好きでンなクソ汚ぇ所来ると思ってんのかよ、バーカ。マターリさんに担当決められなきゃ、今頃可愛いあの娘とギシアンしてるぜ」
(゜<_゜)「てめぇに近づいただけでトニー様の怒りに触れそうだしなぁ、ひゃはははは」
汚い服!
風呂入ってんのかよお前よー!
口汚い罵声が降り懸かる。
だがドクオは、何の狼狽も見せずに冷たく口端を上げた。
('A`)「パツキン男の犬がよく言うぜ。そっちこそ臭ぇから近寄るな」
428
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
20:27:46.15 ID:+P0t7417O
挑発的なその口ぶりは、血気盛んな若者に火を点けるには十分だった。
てっ…めぇぇええええ!!!!
言葉の意味を飲み込むようにぽかんと口を開けていたシグマグチとコッチミロヨが、吠えながらドクオに突進してくる。
(゜<_゜#)「んだコラ!ドクオの癖にえらそうじゃねぇか、ああッ?!」
(#`Σ´)「一回ガチで死んでみるか?オラァ!!!」
ドクオは逃げる事なく、呆れたような顔をして二人を見ている。
('A`)「あー、そっち。来ねぇ方がいいよ」
429
:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage] :2006/03/27(月) 20:31:54.87 ID:GAs69u6I0
ここで
俺登場
430
:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2006/03/27(月) 20:35:26.88 ID:BtzvbtO60
>>429
まじか
431
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
20:37:27.67 ID:+P0t7417O
\(゜<_゜;)`Σ´;)ノ「!!!!!」
ドクオのやる気ない言葉とともに、突撃してくるシグマグチとコッチミロヨの身体が、地中に沈んだ。
うわああああああああああああああああああああ
/\___/ヽ
/ :::::::\
|,---- ----、:|
|、_(o)_ _(o)_,:|
| < :|
\ /([三])ヽ:/
/`ー-----―´\←>>429
433
:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage] :2006/03/27(月) 20:39:47.67 ID:GAs69u6I0
ちょwwwww出してくれたしwwwwwウレシスwwwwwwwwwww
434
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
20:47:26.63 ID:+P0t7417O
ズボオォオオオオオオオオオオッ!!!!
思い切り落下していく何かが土壁を擦っていく音を聞きながら、ドクオが額を押さえる。
('A`)「だから来るなって言ったのに…」
\(゜<_゜;)`Σ´;)ノ「っだあぁ!??ああああああああぁあjtpgmkふじこmw!!!1111」
シグマグチとコッチミロヨはそう、ドクオの数歩手前、無駄に大きな落とし穴に見事に嵌まっていた。
パニック状態で慌てふためく二人に近寄りながら、ドクオが面倒臭そうに言った。
('A`)「花に悪戯するブタイノシシがうぜぇから作ったけどよぉ…底に竹槍刺す前で良かったな」
436
:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2006/03/27(月) 20:49:13.49 ID:gomxs5eF0
俺もブタイノシシ役でだしてくれ
437
:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
[sage] :2006/03/27(月) 20:54:36.24 ID:GAs69u6I0
ブタイノシシ役かよwww
438
:まとめ :2006/03/27(月) 20:59:40.37
ID:a+D1E3tf0
>>429-
からの流れをどうまとめたらのかわかんねぇwwwww
439
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
20:59:44.38 ID:+P0t7417O
('A`)「まあ竹槍ごときでブタイノシシが死ぬとは思えねーけどよ…」
穴はそれほど深くは無いもの、ドクオは獲物が逃げられないように土壁につるつると滑る樹液を丹念に含ませている。喚く二人を見下ろしていると、
ガササッ。
茂みが揺れる音がした。
〈Ω〉
Ч゚ ゚Ρ
人__∞)
δ(|>>436|)
`〜| |
∪~∪
('A`)「ブタイノシシktkr」
447
:CATS ◆STRAY/tOkM [まとめ人スマソ]
:2006/03/27(月) 21:16:49.92 ID:+P0t7417O
何と言うタイミングだろうか。
('A`;)(……やべぇ、落とし穴もう使っちまってるじゃねーか)
冷や汗が流れる。近場にある武器と言えば、堆肥を運んだ際の杓子、それに石くらいであるがそんなものが頑丈なブタイノシシに効くとは思えなかった。
(`Σ´;)「だ、出せよ!!ここから出しやがれドクオーーーー!!!」
('A`#)「るっせぇな!今取り込み中なんだよ!!てめーはくそみそでもやってろ!!」
(゚<_゚*)(どきん…)
(`Σ´;)「ちょwおまww待てなにときめいてんのwwwwwwwww」
454
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
21:21:13.02 ID:+P0t7417O
ブタイノシシは、ドクオをじっと見つめている。
〈Ω〉
Ч゚ ゚Ρ
人__∞)
δ(|>>436|)
`〜| |
∪~∪
【ブタイノシシを仲間にしますか?】
はい
>いいえ
('A`)「あー、『いいえ』」
【ブタイノシシはさびしそうに落とし穴に入っていった…】
('A`)「ちょwwwwwwwwwwwww」
(`Σ´)「おまwwwwwwwww」
(゚<_゚)「ktkrwwwwwwwwテラセマスwwwwwwwww」
463
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
21:35:01.48 ID:+P0t7417O
('A`)「さて、と」
なんだかんだでブタイノシシによる危機も去り、ひとまず安心したドクオは改めて落とし穴の縁にしゃがみ込み、二人プラス一匹を見下ろした。
罰が悪そうにシグマグチとコッチミロヨが底に座り込み、ブタイノシシが胡座を掻いてドクオを見ている。
ドクオは疲れたように眉間に皺を寄せた。
('A`)「んで……何しに来たわけ?つうかさ、嫌がっててもホントは俺の事好きなんだろ?身体は正直だぜ?」
(`Σ´;)「あるある…ねーよwwwだから、マターリさんに言われたからに決まってんだろ!」
('A`)「マターリに?」
心当たりが無さ過ぎて、ドクオが首を傾げる。
464
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
21:42:52.37 ID:+P0t7417O
('A`)「おいコッチミロヨ、こっち見ろよ」
(゚<_゚)「んだよ…」
不機嫌そうに頭に落ちてくる土を払いながら、コッチミロヨがドクオを見上げる。
('A`)「マターリが俺に何の用なんだ?」
(゚<_゚)「別にマターリさん個人の話じゃねぇよ。つうかお前に用があるんじゃねぇしよ」
('A`)「あ………?」
元よりドクオの頭の回転は早くない。コッチミロヨの話を聞くものの、ますます訳が分からなくなってきた。
467
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
21:53:10.76 ID:+P0t7417O
(`Σ´#)「ッああ!んの糞ドクオがっ!!」
だごんッ!
苛々と煙草をくわえようとしてはブタイノシシに取り上げられたシグマグチが、苛立ち任せに壁を殴り付ける。
(`Σ´#)「んっとにテメェむかつくぜ!!テメェみたいなんが居るからトニー様がお怒りになるんだよ!!」
トニーの名前を聞いた瞬間、神が不在と言う事実による不安を思い出したのかコッチミロヨも殺気を込めてドクオを睨み付けてくる。
(゜<_゜#)「……テメェなんかあの時、モララーさんの代わりに死んどきゃよかったんだ」
('A`##)「――――…ッ!」
コッチミロヨが放った低い声に反応して、スクリとドクオが立ち上がった。
表情が消える。
472
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
22:08:21.27 ID:+P0t7417O
暫くの間が有った。
ベシャッ
グシャッ
べちゃっ
(゚<_゚;;)`Σ´;)「うあああッ!?!!」
不意に勢いよく身体に当たって弾けた異物とその凄まじい臭気に、二人が悲鳴を上げて狭い穴の中を悶絶する。
ドクオは冷たく見下ろしながら、持ってきた箱の中の玉子を一つ手に取り、手の中でポンポンと跳ね上げた。
('A`)「あんなァ、お前ら」
静かに言う。ドクオの唇が怒りの余り笑みの形に歪んでいた。
('A`)「世の中にはなぁ、言っていいことと悪い事があるんだぜ?」
ブンッ!
(゚<_゚;;)「止め…ッ!」
ドクオが投げ付けた腐った玉子が、コッチミロヨの頭に当たって砕けた。
(゚<_゚;;)「ひ、ひぃ…」
473
:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします
:2006/03/27(月) 22:14:59.74 ID:x7rbG0o70
―腐った卵投げてくんなyo―
,ヘ ,:ヘ.
/: : \ /:: !
/::::..... \--―‐'.:.:::... !
./  ̄/〃__〃 /  ̄/ /
/:::::: ',
―/ __ _/ ./ ―― / /
,'::::
i _/ / / _/ _/ /_/
.i:::: ''''''' '''''''
!
!:::. (●), 、(●)、
! +
|::::.. . ,,ノ(、_, )ヽ、,,
l _,-,.、
i;::::.. ノ ___,,,:: -イ
! i´ヽ い {,-ゝ.
':;::::... ヾ二--‐</ / +
l ,人 __,!...!_}ゝ l
_ \:::::.... ヽ..__,,/
/ + ヽ. '´ ` /
/ `ヽ `ゝ:::::........ ....../_
/ ァ-- '
i::..... ;\!..-ー 、 /⌒ヽ
、\ / .:/
` '''''ー- 、::::/ ,.. . `/::: 〉‐
、 \ \ / ..::ノ
.ソ' : /::. /:: 〉
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/i:. :,'::. /:: ./ヽ
\! ..:;'
/ |:: |ヽ.:.. :'::/ \
.::/
/ !::. i::.:.:`:‐"ー、_,ノ \:::/
/ ,/ヾ;:.... /:.:.:.:.:/:::.:.. ヽ、
| :i `ー::':.:.::.:.:./\:::::.:.:.
':;
474
:CATS ◆STRAY/tOkM [レッツくそみそ('A`)]
:2006/03/27(月) 22:17:02.58 ID:+P0t7417O
ベシャッ
ぐちゃっ
べちゃっ!
ドクオは怒り任せに大量の玉子を投げ続ける。
シグマグチが臭気に吐きそうになりながら、涙目で見上げた。
(;`Σ´)「やめ、もう止めてくれよ…謝るからさ…」
(#'A`)「…知るか」
ビュッ。また玉子が炸裂する。
身体中をぬるぬるとした生臭い白身やら黄身やらに濡らされて、とうとう二人が泣き出した。
('A`)「これで終わりと思ってんのか?ああ?」
ドクオが冷めた言葉を放つと同時、遠くからよく通る声が近づいて来た。
(´ー`;)「シグマグチー!!コッチミロヨーーー!!どこにいるんだーー!」
476
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
22:25:10.23 ID:+P0t7417O
あの声は…マターリさんだ!!!
泣きじゃくっていた二人が一筋の光を見付けたかのように顔を上げ、思い切り叫び始めた。
ヾ(;Σ;)ノ「こ、ここですマターリさん!!!」
ヾ(;<_;)ノ「助けてください!助けてください!助けてください!」
('A`)「うるせーな……」
力が抜けたようにドクオが玉子を握る手を離し、地面に尻を落とした。
('A`)「うるせーよ…」
乾いた笑みを漏らす。
(;´ー`)「なッ…なんだこりゃあ!」
程なく音源を見つけて駆けて来たマターリが、場の様子を見て愕然となりながら声を上げた。だがさすがは農家の長男、臭気にも怯まず側に寄り穴を覗き込む。
ドクオが目を逸らした。
477
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
22:39:00.41 ID:+P0t7417O
(´ー`)「ドクオ…」
('A`)「……そいつらが先に手ぇ出して来ただけだ。連れて行きたいんなら勝手に連れて行ってくれ」
剥きだしの岩壁に立て掛けてある梯子を指差し、ドクオは気まずそうにマターリの傍を通りすぎる。
その後ろ姿を遠慮がちに見つめながら、マターリは声がかけた。
(´ー`)「後で少し…話せないか?」
('A`)「……」
(´ー`)「他愛無い事だけでもいいんだ」
('A`)「…シラネ」
ドクオは振り返らずに歩いて行ってしまった。
風に夕闇の気配が漂い始めた頃、マターリによって二人と一匹が救出された。
二人は汚れた身体を引きずりながら、ほうほうの態で帰路につく。腐った玉子の残りを見付けたブタイノシシが嬉しそうに箱を持って木々の中に帰っていくのを見送り、一人残ったマターリは溜め息を吐いた。
481
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
22:50:01.90 ID:+P0t7417O
(´ー`)「……ふう…」
カチッ、カチカチ。
('A`)「…まだ居たのかよ」
マターリが安い紙煙草を取り出し、風を避けながら火を点けていると大きな竹籠を背負ったドクオが呆れ顔で洞穴からこちらを見ているのが分かった。
(´ー`)「ま、帰りを待つ嫁さんなんかいないからね。気楽だよ」
まったりとした笑みを浮かべて、じゃりじゃりと足元の小石を鳴らしながら、マターリがドクオに近づいていく。
玉子投げの責任を問われるのかと、ドクオがふて腐れた顔でそっぽを向いた。
('A`)「…俺は謝らねーぞ」
(´ー`)「謝らなくていいさ。理由は聞いたからな」
('A`)「……あっそ」
484
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
23:02:47.84 ID:+P0t7417O
■・ω・■「みゃー…」
茂みが揺れて、先程のヌコイヌの子が現れると静かにドクオの足元に懐いてくる。抱き上げたヌコイヌの、その額の白い斑点の部分がこんもりと打撲の形に腫れているのを見ると、ドクオの口から溜息が漏れる。
('A`)「お前も俺の巻き添え喰らっちまったか…」
(;´ー`)「すまん。あいつらにお前の区域を担当させるべきじゃなかった…俺の人選ミスだ」
人選ミスや担当、と言う普段余り耳にしない単語を訝しむようにドクオがマターリを見る。
('A`)「つうか、何の用なのよ。昨日からやけにうるせーんだけど、そっち。また祭でもやってんの?」
486
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
23:14:35.17 ID:+P0t7417O
(;´ー`)「そんなんじゃない、呑気な奴だな。…村の存亡が掛かった一大事さ」
重苦しいマターリを横目で眺めながら、ドクオがごく軽い調子で肩を竦める。
('A`)「ああ?天変地異でも起こったか、パツキン男がおっ死んだのか?」
(;´ー`)「おいおい、あんまり口が過ぎるぜ…罰は当たりたくないんだ、勘弁してくれよ」
('A`)「だから何なんだよ?」
抱いたヌコイヌを撫でやりつつのドクオに、マターリは「実は」と前置きしてからつらつらと昨日の出来事を物語り始めた。
夫婦の事。
白の祠が倒壊した事。
トニー=ブラウンが消えた事。
三日間の期限。
………
あらかた聞き終えて理解したドクオが気が無さそうに頷いた。
('A`)「…ふーん。で、今お前たちがパツキン男を探してるって訳」
489
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
23:24:49.77 ID:+P0t7417O
(´ー`)「まあ、そう言う訳さね。俺達が今日見た範囲にはいらっしゃらなかったようだが」
('A`)「…聞かれる前に言っとくが、俺は見てないぜ。興味ねーし」
(´ー`)「そうか…ならいいんだ。シグマグチたちが無駄に邪魔して悪かったな」
('A`)「ああ、…慣れてっし、反撃はしといたしよ。別にかまわねー」
(´ー`)「そうか……」
('A`)「?何だよ」
ドクオを見つめたまま黙り込むマターリを前に、居心地悪そうな顔でドクオは尋ねた。
('A`)「俺忙しいんだよ。他に用ねぇなら、とっとと帰ってくそみそでもしてろって」
490
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月)
23:34:34.22 ID:+P0t7417O
(;´ー`)「いや…お前とは一度ちゃんと話をしたかったのさ。お前が村を出て行って以来、こうして面と向かって話す機会もなかなか取れなかったしな。
…スマン」
('A`)「…俺ん所に近づくだけでも村のパツキン狂から叩かれんだろ。親しげに話すなんざ問題外だ。
別に気にしちゃねーって」
(´ー`)「…怒ってないのか?」
マターリの小さな問いかけに、ドクオは首を横振って抱いていた小さな生き物を地面に下ろした。
('A`)「アンタにはガキの頃から世話になってるからな。アンタがパツキン狂に嫌がらせ受けるよりゃ、まったりした顔で笑ってる方が気が楽なのさ」
510
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
00:40:57.83 ID:YjDtfuK2O
(´ー`)「…変わってないな」
ぽんぽん。
マターリがどこと無く嬉しそうに言って、ドクオの頭をリズミカルに叩く。
懐かしいその手の感触に、ドクオは少し照れたように口端を緩ませて足元の小石を蹴る。
だが、声だけは鋭利に空を切り付ける。
('A`)「変わったのはアンタ達だ。俺はずっと変わりやしない」
ドクオは静かにそう言って、マターリの胸板、心臓辺りに拳をトン、と軽く突き当てた。
('A`)「こーして俺と話してんだから、アンタの根っこは変わってねぇって信じてるけど」
512
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
00:49:58.81 ID:YjDtfuK2O
(´ー`)「変わった、か……」
マターリのくわえた煙草が赤く光るのと対照的に、空の色は赤みを失い郡青に侵されていく。
('A`)「パツキン野郎にいかれちまうのは、女だけで十分だろ?そっちの気があんのかよ?」
黙り込むマターリの口数を補うようにニヤニヤと冗談混じりにドクオが言うが、その目は笑っていない事に、マターリは既に気付いている。
暫くの躊躇いの末、奮起するように勢いよく煙草を投げ捨ててからマターリはドクオの肩を掴んだ。
(´ー`)「ドクオ。お前が変わっていないと言い切れるか?」
517
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
01:05:24.15 ID:YjDtfuK2O
('A`)「あ、んだよ…」
動揺に揺れる声と共に、ドクオがマターリの手を払いのけようとするが、マターリはそれを許さず真剣な眼差しでドクオを捕らえる。
(´ー`)「お前は。モララーの事引きずってんじゃねぇのか?」
('A`)「!」
ドクオの目が、揺れた。瞬きを繰り返し、少し俯く。そして、ひねくれた笑みでマターリの視線を受け止めた。
('A`)「モララーさんが落岩から俺を庇って亡くなっちまったのは確かな事実だ。痛ぇよ。今でもその事夢に見てうなされるよ。どうしようもねぇ。
だがな、」
(´ー`)「ドクオ」
('A`)「俺はそれに埋もれちまうほど弱くない」
518
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
01:07:35.75 ID:YjDtfuK2O
>>516お前かよwww
まとめの人、お願いしますお( ^ω^)
519
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
01:19:02.98 ID:YjDtfuK2O
(´ー`)「ドクオ…」
('A`)「分かったならいいだろ、帰れよ。嫁さんは居なくても父ちゃん母ちゃんは待ってんじゃねーか」
(´ー`)「逃げんなよ。逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ」
('A`)「逃げてねぇよ、帰れってば」
(´ー`)「お前は村から離れたかったんだろ?でも離れられなかったんだ。
だからトニー様に刃向かって村長に村民権を剥奪させたんだろ?もう戻って来れやしないように!」
('A`)「…帰ってくれよ。帰れったら!!」
バシン、と強い音がして、マターリが大きくよろめき尻餅を付いた。
ハァ、ハァ。
激したドクオが肩で息をしながら苦しそうにマターリをねめ付ける。
(´ー`)「ドクオ……」
(´ー`)「しぃは、お前の事、憎く思ってなんか無かったのに」
('A`#)「帰れつってんだろうが!」
521
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
01:31:22.94 ID:YjDtfuK2O
(´ー`)「…分かった」
暫くドクオの顔を見つめていたが、マターリは静かに目を伏せ、呟いた。ズボンの埃を払い、腰の痛みに少しふらつきながら立ち上がる。
(´ー`)「お前を怒らせたかった訳じゃねーんだ。ごめんな」
そのまま手を振ると、村へと続く砂利道を下っていった。
('A`)「………」
声も無く立ち尽くしたままのドクオに、ヌコイヌが無邪気に擦り付いている。
夜でもクリアな視界を提供するはずのドクオの目に映るマターリの背中が、なぜだか滲んでぼやけた。
―――――!
無表情に歩き、中腹まで下りたマターリは、突然思い出したように振り返り腹から叫ぶ。
(´ー`)「ドクオ!でも俺はお前が嫌いじゃねー!!」
('A`)「…」
525
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
01:43:45.10 ID:YjDtfuK2O
(´ー`)「俺はなぁ、昔みてぇに笑い合いてーんだよ!」
('A`)「………」
叫び終えたマターリは照れを隠すように思い切り舌を出して、村へと歩いて行ってしまった。
残されたドクオは、小さく舌打ちする。困惑した時の癖だった。
('A`)「馬鹿じゃねーの、あの人」
人間が変わんなきゃ生きてけなくて、お前も変わっちまったんだとしても、俺はお前が嫌いじゃない。
マターリの言葉を反芻する。
そんな事痛い程に分かっている。
('A`)「しぃ…」
526
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
01:56:30.57 ID:YjDtfuK2O
('A`)「あー、俺、どうしてぇんだろ。パツキン野郎がムカつくってのは事実なはずだろ、うん」
いわゆるヤンキー座りと言う奴で頭をうなだれさせながら、ドクオは苛々とその辺りに転がった石を投げ飛ばす。
トニー=ブラウンなんて言う得体の知れない男に頼り切る村が疎ましくて、反抗的な態度を取りまくった。
だが今、マターリに指摘されて封じ込めていた痛手がありありと蘇って来ていた。
527
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
01:59:49.13 ID:YjDtfuK2O
(・∀・)『やっぱりしぃの作る飯はすげー旨いよな!』
('A`)『作る奴がしぃだから、旨いんじゃねーの?モララーw』
(*・∀・)『う、うっせーなマセガキ!ネギピーマン喰らえ!』
('A`;)『ちょwww苦ぇwwwww』
(*゚ー゚)『もう…、止めてよね、ドクオったら』
(´ー`)『えー、ネギピーマン美味くないかー?』
モララー、しぃ、ドクオ、マターリ。
親を亡くしたドクオとしぃを支えるように、モララーとマターリが家族ぐるみで世話を焼いていたのが、四人が親密になるきっかけだった。
ドクオは年を経るにつれしぃに惹かれていたが、それを自覚した時には既にしぃはモララーと恋愛関係を育んでいた。
528
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
02:13:43.19 ID:YjDtfuK2O
しぃとモララーは12年間の交際の末に、めでたく結婚した。
お似合いだった。
それなりに嫉妬と言う感情も経験したが、モララーはそれを上回る好人物だった。ドクオの胸からしぃへの想いが消えたと言う訳ではなかったが。
(・∀・)『ドクオ、お前も文字覚えて見ろって!だーいじょうぶだ、漫画なら簡単に覚えられるよ』
(・∀・)『おらドクオ、今週のジャソプだ。やっぱりジャガーは最高だぜw』
(;・∀・)『か、風邪引いただぁ?馬鹿!俺んち来い!動けねぇ?病人動かす訳ねーだろ、俺に捕まっとけ!』
(・∀・)『ドクオ、今日お前の誕生日だろ?面白ぇとこ連れてってやるよ!しぃもマターリも一緒だぜっ!』
529
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
02:26:33.06 ID:YjDtfuK2O
ドクオが15になった誕生日、雪が降る季節だった。
ガラガラガラッ
('A`*)『へへ…何かすげー気分いいや。って、あ?』
(;・∀・)『ドク…ッ!危ない!……っぐあ!!』
('A`)
(;´ー`)『モララー!』
(;*゚ー゚)『あなたぁっ!』
(-∀-lll)『…ぅ、あ………』
(;*;ー;)『嫌!あなた!モララーさんっ!!!嫌あああああああ!!!』
('A`)
四人は星を見に出掛け、その帰り道でモララーは落ちて来た岩石からドクオを庇い、23歳で命を落とした。
新婚生活からわずか三ヶ月で、しぃは未亡人となり、結婚の際に買った華やかな衣類の代わりに黒服を着なければならなくなった。
534
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
02:36:40.16 ID:YjDtfuK2O
(*;ー;)『…ドクオ?へへ、ごめんね、こんな顔見せちゃって。なにか食べてくでしょ?ちょっと待っててね…』
(*;ー;)『捨てられないの、あの人の服。あの人の部屋、怖くて入れないの。あの人が居ないって自覚するのが、たまらなく怖いのよ』
(*;ー;)『どうしてあの人じゃなきゃ駄目だったの…?』
('A`)オレノセイダ
もう、気安く『モララー』なんて呼べなくなってしまったから、生意気なドクオがその人にだけは敬称を付けた。
モララーさん。
536
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
02:51:05.01 ID:YjDtfuK2O
モララーがドクオを庇ったと言う事実は、公には伏せられた。彼の遺言がそうだったからだ。恐らく一部の心ない者がドクオを批難し、ドクオが村に居づらくなる事態を恐れたのだろう。
(*;ー;)『ドクオ…、紅茶あるわよ?おいでよ』
しぃが自分を責めて来た事は一切無い。ただ一度だけ、耐え切れなくなったように漏らした言葉がドクオの胸にはいつまでも残っていた。
『どうしてあの人じゃなきゃ駄目だったの…?』
モララーに助けて貰った身体を、川に投げたり首をくくったり、自棄に扱うつもりはさらさら無かった。
ドクオはそれほど甘えた人間では無かった。
逃げたかったのは、逃げたかったのは、それでも尚余るしぃに対する自分の『恋心』だった。
540
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
03:03:18.61 ID:YjDtfuK2O
('A`)「あー、俺、きめぇ。マジうぜぇ。さすがドクオだな」
我に還った時、既に辺りは暗く沈んでいた。足元の子犬はいつの間にか去っていて、下を見れば底の擦り切れた靴の金具だけが、ささやかな月の光を跳ね返して輝いている。ドクオは思い出したように竹籠を背負い、歩き始めた。
彼女が好きだ。
自分が彼女の一番大事な人間を殺しておきながら、それでも尚彼女が好きだ。
('A`)「うぜぇ…」
じゃりじゃり、じゃり、じゃり。ドクオはそのよく利く目を活かして薬草の生える場所に繋がる入口を見分けると、連なる木々の中へと黙々と足を進めて行った。
トニー=ブラウンと言う男に追従するような女に変わってしまっても、それでも尚彼女が好きだ。
542
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
03:15:24.86 ID:YjDtfuK2O
('A`)「♪…まっさらなオレンジはどこにある〜」
調子外れに出鱈目な歌を歌いながら、以前木の枝に結び付けておいたリボンを目印にしてスイスイとドクオは夜の森を分け入って行く。
彼女が好きだ。
あのまま村に残っていれば、恐らく自分は彼女を傷つけてでも手に入れていた。
そのくらい彼女が好きだ。
だが、彼女に想いを告げる事はこの先一生無いだろう。死ぬ間際までも無いだろう。
彼女は、自分が唯一尊敬する男が愛した女性だ。
ただ、自分は彼女の笑顔が見られたらいい。
無理して見せるぎこちない笑みなどはいらない。
何も考えず、ただ嬉しそうに笑ってくれれば、自分の想いも何もかも、万事全てがそれでいい。
いつか咲かせるまっさらなオレンジは、彼女に笑顔を与えてくれるだろうか。
543
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
03:27:17.18 ID:YjDtfuK2O
('A`)「♪プリティで〜キュアキュア〜二人はプリッキュア〜…つうかプリキュアって三人じゃねーのか?あれ。何かおかしくね?」
梟の低い鳴き声が鼓膜を震わせて過ぎる。体内時計は午後8時を告げて、夕食がわりのジャーキーをかじりながらドクオはひたすら歩いて行く。
そんなドクオを木に背を預けて、間近で見ている男が一人。
流れるような夜にも映える金髪と白い衣が美しいその青年は、雲の上を滑るような足取りでドクオに近付き、気付かないドクオに少し笑みを誘われながらドクオの進路とは違う方向を静かに指差した。
546
:CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/28(火)
03:34:21.78 ID:YjDtfuK2O
くくく。ドクオの首が、それに釣られるように動いて指差された方角を向く。
('A`)「…今日はこっち行ってみっかなぁ。俺様の直感が何かが有ると告げているぜ」
ドクオはリボンを取り出すと手近な木々に結び付けて印を残し、鼻歌を歌いながら未開の道へと踏み入って行った。
背後で見送る金の髪の主が、朗らかな笑みを向けて手を振る。
(vv≦・*)「……行ってらっしゃい」
('A`)「ん?」
誰かの声を拾った気がして振り向いたドクオの目には、何も映らない。
('A`)「幻聴テラヤバス…」
肩を竦めてドクオはまた先と同じ足取りで歩いて行く。
何かの獣の鳴き声が、高く物悲しく森中に響き渡っていった。
第5部4
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