232CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 23:09:12.36 ID:xIjdNt00O
【第5部―WHERE ARE YOU?Mr.Tonnie―】

『さーあ手足の運動〜』

タン、タンタタラララ…タンタンタララララ


\( ^Д^)ノ「おーおきく腕を回してー」

\(´・ω・`)ノ「ホッ、ホッ」

( ^Д^)b「そのままウェイクアップ!」

(´・ω・`)b「ウェイクアップ!」

\( ^Д^)人(´・ω・`)/「「HEY!YOU!タ・ン・タ・ンメ〜ン☆」」

ベシッ
ショボンが仕事用の分厚いファイルを地面にたたき付けた。

(´・ω・`)「…ぶち殺すぞ」

(;^Д^)「ちょw待っwwwww襟つかまないでwwwwなんでwwwww」

233CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 23:12:05.98 ID:xIjdNt00O
(#´・ω・`)「俺ぁ低血圧なんだよ。特別手当も出ねぇのに、毎朝毎朝てめぇの糞ラジオ体操なんかに付き合ってらんねぇんだよ、わかるか?ハゲ」

(;^Д^)「だ、だって…」

(#´・ω・`)「?」

(;^Д^)「…一人じゃ寂しいんだもん」

(´・ω・`)「知らんがな」

/ ,'3「…君達、そのやかましい音楽を止めてくれんかね」

235CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 23:22:16.28 ID:xIjdNt00O
(;^Д^)「あ、荒巻様!申し訳ございません!」

近場に聳える宿は右斜め上の二階窓。
黒いシルクのガウンを纏って眉間に皺を寄せている荒巻の姿を見つけると、プギャは勢い良くラジオを止めた。

(´・ω・`)b「荒巻さんGJ!」

/ ,'3「前々から注意しようと思っていたが私は低血圧でね…朝からこんなに騒々しい音楽を流されては敵わんのだよ」

(;^Д^)「申し訳ありません…」

葉巻をくわえながら、不機嫌さを丸出しにした荒巻を前にプギャが小さくなる。荒巻は上流階級特有の、小馬鹿にしたような笑みを鼻先にかすめさせた。

/ ,'3「ふっ、どうせかけるのならモーツァルトにでもしたまえ」

( ^Д^)「モッツァレラ?」

(´・ω・`)「それチーズ」

241CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 23:38:28.14 ID:xIjdNt00O
/ ,'3「ところで…」

深々と葉巻を燻らせ、二人を見下ろしたまま荒巻が眼光鋭い目を細める。

/ ,'3「捜索の方はどうだね?」

( ^Д^)「ハッ!順調であります!ショボンくん!」

(´・ω・`)「え?あーはいはい。捜し隊ね。ちょっと待ってね」

たたき付けたファイルの土を払って、手慣れた所作で目的のページを探し当てたショボンが朗々と報告する。

(´・ω・`)「捜索隊に駆り出せる村の男達は27人。それを約5人ずつに分けまして5班。
昨夜の打ち合わせ通りにモララー班が午前5時半にアナリスク川近辺に出掛け、マターリ班が荒れ地に、キコエネーヨ班が―――」

滔々と語るショボン。 荒巻は聞き終えると、鋭く目を尖らせた。

243CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 23:45:02.87 ID:xIjdNt00O
/ ,'3「それで…見付かるのかね?」

(;^Д^)「え、いや、万事を尽くしますが…」

蛇に睨まれた蛙のように縮こまるプギャに、荒巻は容赦のかけらも見せず冷たく“命令”した。

/ ,'3「…何がなんでも見つけ出せ。いいな」

キィ…バタン。

白いレースのカーテンがふわりと揺れた後、窓が閉まる。荒巻の気配が窓辺から消えるのを息を詰めて見送ると、プギャは力尽きたようにへなへなと力無くその場にうずくまった。

244CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 23:55:28.62 ID:xIjdNt00O
(;^Д^)「……う…ッ、あ…」

(´・ω・`)「村長!村長!」

今度こそもう駄目だと思った。地に崩れた彼の身体から、みるみるうちに生気が抜けていく。
抱き起こした冷たい塊。目の前が涙で滲んで見えない。彼は、――ああ、最後に私を呼んだのだ。

( ^Д^)「ショボ…ン……」

(´;ω;`)「村長ォーーーーー!!!!!!」

私の叫びは誰にも届く事なく空へと消えていく。

たんぽぽの綿毛が、悲しみを知らないように軽やかに飛んでいった。


【◆おわり◆ご愛読ありがとうございました。CATS◆STRAY/tOkMの次回作にご期待ください!】

247CATS ◆STRAY/tOkM [頑張るお( ^ω^)] :2006/03/27(月) 00:03:32.31 ID:+P0t7417O
(;^Д^)「ちょwwだから勝手に殺すなww何そのコテwwww」

(´・ω・`)「うぜぇ」

(# ^Д^)「プギャアアアアーーーーー!!!!1朱雀衝撃波!!!!111」

(´・ω・`)「あー…ようやく目ぇ覚めてきたわ」

朱雀衝撃波と言う名のただのストレートをひらりとかわして、ショボンは真顔でファイルに目を通す。

(´・ω・`)「今頃捜してんでしょうかね、あの二人も」

(;^Д^)「さぁ…な」

胃薬を流し込みつつプギャが横目にショボンを見つめた。

( ^Д^)「曇っているな…」

249CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 00:15:26.21 ID:+P0t7417O
ショボンがきょとんと見つめ返す。

(´・ω・`)「村長の頭がですか?」

(#^Д^)「…お前今月の給料うまい棒現物支給と思っとけ」

(´・ω・`;)「ちょwww俺は村長にごめんなさいしないといけないよね(´・ω・`)」

ショボンが一つ息を吐いて空を見上げた。

(´・ω・`)「確かに…程度は軽いけれど曇りなんて、久々ですよね。昨日までは普通に晴れていたのに」
( ^Д^)「うむ…」

プギャの顔色も、空と同じく晴れない。

( ^Д^)「悪い予感がする……」

250CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 00:24:10.43 ID:+P0t7417O
(;´・ω・`)「ちょ、不吉な事言わないで下さいよ…ただでさえこんなに不安定な時なのに…」

( ^Д^)「…解っている」

答えるもの、プギャの目の色は沈痛に暗かった。
少しだけ重苦しくのしかかる空の色は、「あの頃」を思い出させて仕方が無い。二年前、トニー=ブラウンが訪れる前の寂れた荒野時代を―――。

(´・ω・`)「村長…」

( ^Д^)「…ショボン、朝飯は食ったか?」

何事も無かったような顔で、プギャが振り返る。ショボンは面食らって視線をさまよわせた。

(´・ω・`)「い、いえ。まだですけど…」

( ^Д^)「たまにはワシの家に食べにこんか?独身男は栄養が偏っていかんと言うしな」

251CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 00:34:30.54 ID:+P0t7417O
(;´・ω・`)「へ?そりゃ村長の奥さんの料理は美味いけど…村長に誘われるなんて珍し過ぎて何か気持ち悪いなぁ」

(#^Д^)「嫌なら別にいいんだが?」

Σヾ(´・ω・`;)ノシ「行きます行きます!カップラーメンはもう飽きたんです!」

ウジウジしても仕方が無い。賽は投げられた。

明るく振る舞う事で、プギャは振り切ろうとしていた。じゃれあいながら、二人はプギャ宅へ向かって歩き出す。
大声でショボンと言葉を交わしているうちに、何だか本当に明るい気分になってきた。
プギャの足取りは軽くなる。

(*^Д^)(…取り越し苦労だったかな)

そして。


「きゃああぁあああああああぁあああぁああ!!!!!!!!!」


(;´・ω・`)「なッ、なんだあの悲鳴は…!村長!農園の方ですよ!」

(;^Д^)「……………………」

災厄は遠慮なく訪れる。

252CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 00:47:21.10 ID:+P0t7417O
/ ,'3「……ふう」

朝のコーヒーは格別だ。ブルーマウンテンは私のシンボル。

荒巻は質のいい揺り椅子に深々と腰掛け、老眼鏡越しに2ch新聞の株価情報に目を通す。
購入した持ち株は上々。読みは当たっていた。

/ ,'3「〜♪」

レコード針が、ブラームスのシンフォニーを繊細に刻み上げるのに合わせて、荒巻も機嫌良く鼻歌を歌う。

/ ,'3「ふん…」

ふとラジオ体操の曲が耳に甦り、それと同時に村長の薄っぺらい表情まで思い出してしまい、荒巻は不愉快そうに唇を曲げた。

/ ,'3「下賎な者はつまらん。いや、レディ・しぃは別だけどね、うん」

254CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 00:53:59.75 ID:+P0t7417O
トニーが居なくなっても、よくよく考えれば荒巻が困る事は無い。

最も悩みの種だった足は、既に願いを終えて完治しているのである。トニーが与えてくれる富や才能が何だろう?
現世の富ならば、荒巻が本気を出せばたいてい揃えられる。才能や美醜にこだわるほど荒巻は若くはなかったし、珍しい事に「不死」と言う魅惑の響きにも興味は無かった。

/ ,'3「人間一度は死ぬものなのさ。どれだけ楽しんで生きたかで価値が決まるのだよ」

誰にともなく言って、荒巻は新聞を折り畳む。
香り高いブルーマウンテンを口にして、目を閉じた。

/ ,'3「しかし……しぃ、か」

255CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 01:05:04.50 ID:+P0t7417O
都会の女は美しけれども、金を見せれば笑顔を見せるし、あまつさえには股をも開く。

そんな女をウンザリするほど見飽きて来た荒巻の目に、美しい上に頑なに貞操を守るしぃはこの上なく魅力的に映っていた。

そう、結婚さえも政略的に仕組んだ事業家・荒巻スカルチノフの、71年目にして初めての恋。
それがしぃだった。

/ ,'3「ふふふ…トニー様がいなくなれば彼女の願い…夫の蘇生も叶うまい。
彼女がこの村に固執する理由も無くなるだろう」

銀のティースプーンでカップを掻き混ぜる。

/ ,'3「そして私は美しい彼女に似つかわしい、真紅の薔薇を1000本贈るのさ…」

キュッ

琥珀色に濡れたスプーンを置くと同時、荒巻は眉を寄せ窓を振り返った。

257CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 01:14:19.01 ID:+P0t7417O
ジリリン。

荒巻がベルを鳴らして5秒もせずにスタッ!と音も無く扉が開いて流石ブラザーズの兄が顔を覗かせた。

(´_ゝ`)「失礼致します。お呼びでしょうか」

振り向きもせずにカーテン越しに窓外を見つめたまま、荒巻が問う。

/ ,'3「…今の悲鳴は何なのだ?」

(´_ゝ`)「は、今現場に我が弟者が調査に参っております」

/ ,'3「…仕事の早さは流石だな」

(´_ゝ`)人(´<_`)「「我等は流石ブラザーズ」」

/ ,'3「弟戻るの速ぇwwwwwwww」

(´<_`)「報告よろしいでしょうか?」

息一つ乱していない弟者が、忠誠を誓う犬のように頭を垂れて荒巻に問うた。

/ ,'3「うむ。構わん」

260CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 01:26:10.28 ID:+P0t7417O
(´<_`)「ハッ。まず悲鳴の主は、当村の住人であるアルアル=w=ネーヨ。
187センチ84キロ37歳独身、芸能人で言うと本人いわく『小池徹平かなぁ☆』のオカマです。どう見ても三瓶にしか見えません、本当にありがとうございました」

(´_ゝ`)「何その突っ込み所満載な住人」

/ ,'3「ふむ。で?」

(´<_`)「ネーヨは偶然に腕を骨折していまして捜索隊には関わらなかったのですが、留守中に片手でも足りる軽い畑仕事くらいはやっておこうとしたようです。
そして今朝、農園へと出掛けてみたら…」

ゴホン、と弟者が咳ばらいした。

(´<_`)「収穫を目前にした畑作物の約三分の一が全て死に絶えていたそうです」

261CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 01:36:51.79 ID:+P0t7417O
/ ,'3「作物が…」

荒巻は考え込むように顎を撫でた。天候も気温も夕べからたいして変わっているわけでは無い。

/ ,'3「害虫や獣の被害ではないのだな?」

(´<_`)「はい、違います。農学を極めた村の長老陣にも、原因は解らない…と」

/ ,'3「ふぅむ…」

あらかた予想通りの答えに、荒巻は一つ唸る。

/ ,'3「神罰……トニー様の祟り……だな。」

弟者がコクリと頷いた。

(´<_`)「私にもそう思われます。そしてオーナー、少し気になる情報を見つけたのですが」

/ ,'3「何だね?」

262CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 01:43:33.28 ID:+P0t7417O
(´<_`)「兄者」

(´_ゝ`)「承知した、弟者」

カサリ。兄者が胸ポケットから、一枚のくしゃついたメモ紙を取り出した。それを恭しく荒巻に進呈する。

(´_ゝ`)「…村長付きの秘書、ショボン=グッドフェローの家屋から漏洩した情報です。いえ、格好イイ事言ってても実際はゴミ箱漁っただけなんですがね」

荒巻は老眼鏡を調整して、細々とした紙面に目を凝らした。

/ ,'3「これは………」

263CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 01:52:26.08 ID:+P0t7417O


○月×日(はれ)
「トニー=ブラウンの影響による実害」
●アナリスク川、ヒメウオの数が激減。対処急げ。
●夏撒き予定のアカリスイカの種、半分が腐る。(買わなきゃやべぇ)
●つーちゃんの縦笛がぬすまれる。犯人ぬっ殺す。
●森にプ○さんに似た黄色い熊が出現。対処→子供に蜂蜜を与えない事。
●実は美代子さんて私の事が好きなのかもしれない
熟女はイラネ。




走り書きなわりには読みやすく整った字だ。
つらつらと眺めていく内に荒巻は片眉を跳ねさせた。

264CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 02:01:54.50 ID:+P0t7417O
/ ,'3「日付か……」

(´_ゝ`)「気付かれましたか。お察しの通り、トニー=ブラウン様が姿を隠されたのは昨日。ですが、このメモが書かれたのはそれよりも一週間も前です」

淀み無い口調で兄者が言葉を続けていく。

(´_ゝ`)「メモの内容は『トニー=ブラウンの影響による』被害を纏めた物。そしてそれに対する『対処法』。トニー様が居た頃から既に、被害が勃発を始めている。そしてそれを隠蔽しようとする村長秘書。
何か匂うとは思いませんか、オーナー」

/ ,'3「………」

荒巻はメモを手に重々しく頷いた。

/ ,'3「ま、いいじゃん」

270CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 02:11:57.90 ID:+P0t7417O
(´_ゝ`)´_>`)「(ちょwwwwいいのかよwwwwwwwww)」

荒巻は気持ち良さそうに伸びをしながら立ち上がり、英国仕立てのスーツとシャツをクローゼットから取り出した。

/ ,'3「さして気にするほどの事でも無いだろう。事業家と言うもの、時に情報を切り捨てる事も大事なのだよ」

(;´_ゝ`)「はあ…」

/ ,'3「それにその日付はトニー様が祠に篭られていた時期に該当する。
瞑想の最中、つまり神力が本調子で無い時はそんな環境の乱れくらい珍しい事では無いかもしれん。あの村長も村を無闇に混乱させないため、隠蔽という手段を取ったのだろう」

荒巻の堂々とした物言いに、思わず流石ブラザーズも納得してしまった。

(´_ゝ`)´_>`)「な、なるほど…流石だな、オーナー」

276CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 02:22:28.80 ID:+P0t7417O
奇しくも。
荒巻のたてた推理は村長コンビが異変に気付いた村人達に使う常套手段だったのだが、いかに荒巻が秀でているとは言え、今それを見抜く事は不可能だった。

/ ,'3「君たちには報酬がまだだったね」

(´_ゝ`)´_>`)「はっ」

荒巻の笑顔に、流石ブラザーズはかしこまった。

/ ,'3「手、出してごらん」

(´_ゝ`)´_>`)「は、はい」

/ ,'3「一つずつあげようね^^」


コロン。



◎―





(´_ゝ`)´_>`)「ちょwww30円チュッパチャップスktkrwwwwwwwテラウレシスwwwwwww」

282CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 02:34:58.17 ID:+P0t7417O
(*´_ゝ`)「お、やったな。俺はマンダリンオレンジだ弟者」

(;´_>`)「く…ああッ!無念、プ……プリンだ兄者!プリンだ!」

(;´_ゝ`)「な、何ィ!愚か者め!!!!」

/ ,'3「ほっほっほ。剥いてみたまえ」

着替え用カーテンの向こうで着替えを済ませながら、荒巻が優雅に微笑んだ。

(´_ゝ`)´_>`)「………」


ぺりぺりぺり。
安っぽい包装を破り、丸い球体をあらわにする。


(´_ゝ`)「『あっ、あ……いゃぁ…やめてっ!ぬがさないでっ///』」

(´_>`)「シンクロきめぇwwwwwwww」

/ ,'3「ほっほっほっほ」







(*´_ゝ`)´_>`)「「どう見ても純金です、本当にありがとうございました」」

284CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 02:44:23.74 ID:+P0t7417O
/ ,'3「ほっほっほっほ…」

しわくちゃの紙切れをこの部屋には目障りだとばかりに破いて屑入れに散らせると、喜ぶ流石ブラザーズを置いて、着替え終えた荒巻は愛用のステッキを片手に揺らしながら宿屋を出た。
/ ,'3「う〜ん、マンダム」

何だかんだと騒ぎになっているようだが、空気はまだまだ澄んでいて美味い。

意気揚々と、荒巻はいつもの華麗な足取りで道を歩き始めた。

その時。

/ ,'3「…ッ!」

ぐらり、と荒巻の身体が傾いだ。咄嗟にステッキを地面に付いて体制を立て直す。

/ ,'3「こ、これは…」

荒巻の声に珍しく動揺の色が滲んだ。
恐る恐る、歩いてみる。別に何とも無い。

286CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 02:55:12.83 ID:+P0t7417O
/ ,'3「む………」

荒巻はその場に立ち止まったまま、動かない。
先の一瞬。ほんの一瞬だが、足から力が抜けた。全く動かせなくなってしまったのだ。この現象は、

/; ,'3「トニー様による治療前と……同じ感覚………」

/ ,'3(まさか!!!!)

それに気付いた時、荒巻の表情は一気に変わった。
うかつだ。なぜ気付かなかったのだろう?

287CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 02:56:38.12 ID:+P0t7417O
荒巻は今の今まで、退行しているのは自然現象だけだと思っていた。

だが、だが、もしかすると―――

トニーに力を与えられた環境が退行していると言う事は、すなわち、その退行の中に『荒巻の足』もが含まれているのではないか?

考えてみれば荒巻とて、人間と言う動物、つまり自然の一部なわけだが。

/ ,'3「私とした事が…ッ」

荒巻はステッキで思い切り地面を殴り付けた。途端によろけそうになり、慌ててまた杖をつく。

/ ,'3「く…ッ」

289CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 03:09:13.36 ID:+P0t7417O
/ ,'3「私はまた…足を失うのか……?」

荒巻は常に先端を行く男だった。常に人を見下ろす立場だった。
その堂々たる立ち居振る舞いは行く先さきで、常に羨望の念を引き起こした。
それが覆された時期。
そう、自動車事故により筋肉組織が絶望的なダメージを受け、いかなる医学的治療も徒労に終わり車椅子生活を強いられた屈辱。

見下ろされ、部下に先を歩かれ、椅子にへばりついた惨めな姿を人前に晒す。
持って生まれたプライドの高さが仇となって、常人には何でもない事が荒巻には地獄のような苦痛を与えていた。

/ ,'3「………堪えられ…ん」

感情を抑えた声が震える。
荒巻は流石ブラザーズに通じるベルを力の限り鳴らした。

291CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/27(月) 03:24:58.36 ID:+P0t7417O
数時間後。

取り乱した荒巻の命を受けた流石ブラザーズの暗躍によって集められた、
『トニー=ブラウン様を捜索し隊』
各地から集った総勢20名の精鋭部隊が、ハレルジャ・ヴィップレッジを目指す事になる。
だが、それはまた別のお話。



ああそうそう、ちょうどその頃である。
丘の上に聳える時計台。
風に靡く金髪が流麗を極め、えも言われずに美しい青年が荒巻を見て青い瞳を柔らかに細めていた。
柵に凭れ、遠くを眺める姿はまるで一枚の絵画のようだったが、青年はやがて何事も無かったように空を歩いて雲を渡り、何処かへと消えてしまった。

青年が去るのを惜しむように、時間外れの鐘が淋しい音色で歌い始める。

リンゴン、リンゴン、リンゴン。

それを聞いた村の住人は思ったそうな。

(;`⊇´)「ん?壊れたか?」

ただそれだけのお話。


第5部2
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