135CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 11:09:23.03 ID:xIjdNt00O
【第4部―三日―】

( ^ω^)「うう…ん」

内藤は目を覚ました。少し身じろいだ途端に、身体中に痛みが走った。

( ´ω`)「痛いお……」
ひどく頭がくらくらする。自分の身体が縛られているのを見て状況を悟った内藤は、遠巻きに自分達を取り囲んで何やら議論している村人たちの声をぼんやりと聞いていた。

……で、…の処分は……
トニー様の居場所は……

( ^ω^)(僕は…捕まったのかお)

夕暮れから夜に移り変わる微妙な時間帯だ。広場の真ん中ではキャンプファイヤーのように照明用の火が焚かれていた。
地面に長く伸びる人影が毒々しい。

ξ゚听)ξ「う…ん」

( ^ω^)「!!!!」

背後で聞こえた微かなうめき声に、内藤は地面にはいつくばったまま必死に首だけを曲げて後ろを確認した。

(;^ω^)「つ、ツン…」

136CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 11:15:43.73 ID:xIjdNt00O
内藤は目の前が真っ暗になるのを感じた。

( ^ω^)(逃げ切れ無かったのかお…)

絶望的だと思った。
ツンは完全に目を覚ましたわけではないらしく、うつろな目で空中の一点を眺めている。

( ^ω^)(お腹の赤ちゃんは大丈夫かお…ツンに大きな怪我はないかお)

気になるのに、問い掛けたいのに、妻を安心させてやりたいのに、腫れた頬肉が痛くて言葉に出せない。声にならない。

( ^ω^)(うぅ………)

悔しかった。
どうして自分たちがこんな目に遭ったのか解らない分、尚更に。

137CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 11:23:19.04 ID:xIjdNt00O
( ^ω^)(僕達は神様に会いに行って…)

( ^ω^)(あの祠に入ったんだ)

( ^ω^)(でも、そこには神様なんかいなくて)

( ^ω^)(突然爆発が起こった…)

( ^ω^)(火薬の匂いがしたお。あれは人為的な物かもしれないお…)

ξ゚听)ξ「ブーン…ブーン…?」

覚醒した様子のツンがか細い声で内藤の名を呼ぶのと、周りの殺気がざわりと濃くなるのは同時だった。

カツッ!
革靴の硬い音が、二人の前にて止まる。遠巻きだった人垣が、近づいて来ていた。
内藤たちを見下ろす、異端者を見るような目、目、目、目。
冷たい顔をしたプギャが口火を切った。

( ^Д^)「お目覚めかね、罪人ども」

139CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 11:32:41.98 ID:xIjdNt00O
(*゚ー゚)「恐ろしいわ…汚らわしい、こんな人達を家に呼んでいたなんて」

( ^ω^)「ち…がう!僕たちは何もしてないお!」

しぃの言葉に内藤は思わず声を上げた。切れた唇がピリリと痛む。

/;3「ほう?」

特別に用意された椅子に腰掛けて脚を組んだ荒巻が、皮肉に口端を上げる。

/;3「だとしたら存在そのものが汚らわしいんだな」

(#^ω^)「・・・!!」

ざわざわざわざわ。

(´・ω・`)「皆さん静粛に。静粛に」

ショボンが場に不似合いなほどのんびりとした声で言った。

(´・ω・`)「ただいま村の頭部バーコード連盟…もとい長老会にて、正式に罪状が決定したようです」

141CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 11:43:02.91 ID:xIjdNt00O
集まる衆目の中、ショボンが手元に纏められた、ファイルの書類を淡々と読み上げる。

(´・ω・`)「内藤ホライゾン、内藤ツン。
両名は当村、ハレルジャ・ヴィップレッジの平和を脅かしたばかりでなく、村の繁栄の象徴とも言える神、トニー・ブラウンの怒りを買った…」

(#^ω^)「何もかもデタラメだお!!!!」

( ^Д^)「だまらんか!」

ゴッ!

ξ゚听)ξ「やめて!ブーンに手を出さないで!」

(´ω`)「……」

( ^Д^)「続けたまえ、ショボンくん」

(´・ω・`)「はい、村長。『瞑想中のトニー様の神気を妨げた二人は神の怒りを買い、そして、トニー様は姿をお隠しになってしまった…」

ξ゚听)ξ「…ッ!」
内藤を庇うように寄り添ったまま、ツンが唇を噛み締める。

142CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 11:50:48.71 ID:xIjdNt00O
なんてことだ………
神よ………

周囲から悲嘆にくれる声が漏れる。男女問わず、啜り泣く者までいるようだ。

ξ゚听)ξ(狂ってる……わ……)

( ^Д^)「尚、この一部始終はワシと、そこのショボン。ワシたちがしかと目にしました」

/;3「…聞かせて貰えんかね?事業家の性でね。正確な報告を聞かんと落ち着かんのだ」

( ^Д^)「わかりました。皆さんも耳を傾けてください。あの恐ろしさは居合わせた者にしか解らないでしょうが…ショボン、」

(´・ω・`)「はい、村長。」

ショボンは一枚、ファイルの上のページをめくる。
プギャが作成したシナリオのカンニングペーパーが現れて、ショボンはさりげなくそれに目を落とした。

143CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 12:02:14.81 ID:xIjdNt00O
(´・ω・`)「産業で。
・親切な私達が二人にせがまれて祠に案内
・止めようとした私達を振り切って二人が祠に突入→神の怒り爆発
・トニー様ドコー?←今ここ」

(´ー/;3(*゚ー゚)「把握した」

( ^ω^)「出鱈目だお……」

内藤の言葉は周囲の憤怒の声に虚しく掻き消されていく。

許せない!
許せない!
罪人には死を与えるべきだ!

/;3「…そして、長老会の判決は何なのかね?」

荒巻が不愉快そうにショボンを見遣る。ブルジョア思考のこの男には、平民が集うこの集会がむさ苦しくて仕方ないらしい。

(´・ω・`)「はい。罪人二名に対する判決は―――」

ショボンが言葉を止めて、内藤夫婦を見つめた。

( ^ω^)゚听)ξ「ショボンさん…」

144CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 12:03:52.42 ID:xIjdNt00O



(´・ω・`)「死刑です」











(;^ω^)゚听)ξ「!!!!!!」

146CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 12:14:01.75 ID:xIjdNt00O
/;3「ふ…」

荒巻が満足そうに笑みを漏らした。

ざわざわざわざわっ!

何かの枷が外れたかのように、村人たちが騒ぎ始める。

(`д´#)「火をつけろ!火あぶりだ!」

(・⊆・#)「火あぶりなんて生温いぞ!生き埋めにして苦痛を味あわせてやるんだ!」

縛り首だ!
首を落とせ!

(;^ω^)゚听)ξ「・・・」

列記するには余りにもひどい言葉が、昼間はにこやかに笑いかけて来た人達の口から次々と、悪意を以って飛び出てくる。
夫婦はカタカタと小さく震えるしか、無かった。

148CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 12:21:32.66 ID:xIjdNt00O
( ^Д^)「まあ皆さん、落ち着いてください」

その時、プギャが一歩前に進み出た。
村長に言われては、と、ざわついた村人たちはしぶしぶと口を止めてプギャの方を向き直る。

(■ム■)「何かね?」

村の長老会の重鎮、森田が訝しむように眉を寄せてプギャを見る。

( ^Д^)「心を落ち着かせてお聞きください。いいですか、この二人を今ここで殺しても、トニー様が戻って来るという確証はありません」

(■ム■)「…どういうことだね」

/;3「よもや、情けをかけてみすみす逃そうと言うのではあるまいな」

荒巻の視線が尖った。

178CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 19:29:45.27 ID:xIjdNt00O
ざわっ

空気が揺れる。村人たちははけ口を求めていた。
今までの生活をトニーに頼り切っていた村人にとって、トニーの失踪はいきなり親に見捨てられたようなものだった。
不安、恐れ、怒り、…そんな負の感情が、随分と久しぶりにこののどかな村に舞い戻って来ていた。

そんな中、プギャがはっきりとした口調で言葉を続ける。


( ^Д^)「そんな訳はありません。ワシはこの者たちに、トニー様を捜させてみようと思うのです」

(´ー`)「…捜させる?」

マターリが語尾を跳ねさせてプギャを見る。

179CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 19:32:06.98 ID:xIjdNt00O
( ^Д^)「ああ。もちろん村からもトニー様の捜索隊を出す。だが、村の人口から考えてそれだけでは圧倒的に人手が足りん。
更に、トニー様が居なくなった今だ。恐らく神の力の結界が解けて、以前のようにあちこちに猛獣どもが現れるに違いない。
そんな場所に村の未来を担う若い者たちをやれはせんのだ」

ゴクリ。

淡々としたプギャの物言いに、事態の切迫さを悟った村人たちが息を飲んだ。

( ^Д^)「そこでワシ達は考えたのです。危険な場所は敢えてこやつらに任せようと。
途中で獣に襲われて命を落とすならそれまで、生きてトニー様を見つけ出し、村に戻すことが出来たならそれはそれでいい」

(■ム■)「しかし村長」

黙って聞いていた森田が口を挟んだ。

182CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 19:36:49.75 ID:xIjdNt00O
(■ム■)「野放しにするのは、みすみす逃げろと言っているようなものじゃないのかね」

( ^Д^)「ご安心ください、森田殿。これ、ショボンくん」

(´・ω・`)「はい」

ショボンが傍らに置いていた籠の中から、一対の首輪を取り出した。

/;3「これは何だね?」

(´ー`)「これは…『カミナリ首輪』…」

農家の長男であるマターリが呟いた。

/;3「カミナリ首輪?」

(´ー`)「はい。牛の放牧用に使うんです。牛は放っておくとあちこちへ逃げてしまうでしょう?
だからこの首輪を付けて、予め動き回れる範囲を設定してから牛を放すんです。牛が設定した範囲を越えて外に出ると、警告の電流が首に流れるように」

(´・ω・`)「要するにバトロワのパク(ry」

183CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 19:38:54.40 ID:xIjdNt00O
(´ー`)「もちろん普段は牛を脅かす程度の電流しか流しませんがね。最大電流なんかにしたら、牛が死んでしまいますから」

( ^Д^)「そう言う事です。
そしてこれを、電流MAXで探索の範囲内に設定する。そうすれば逃げる事は出来ないでしょう。逃げたらその時点でビリビリきておだぶつですからね」

/;3「ふむ……」

(*゚ー゚)「万一外して逃げたらどうなさるおつもりですか?」

( ^Д^)「なぁに。トニー様以外にこれを外せる者は鍵を持ったマターリ、私達しかおりません」

(;´ー`)「……」

(・Α・)「どうした?マターリ」

(;´ー`)「い、いや。(合鍵無くしたなんて言えない…)」

( ^Д^)「それにうちにはいい犬が居ますからね」

/;3「犬?」

187CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 19:43:42.60 ID:xIjdNt00O
首を傾げた荒巻の耳に低い唸り声が聞こえた。

ウウウウ…ワンワンッ!ウウゥ…

(;´・ω・`)「どーどーどー」
いつの間に連れて来たのか、ショボンが一頭の大きな猟犬の手綱を必死で捕まえていた。

▼`Å´▼「ガルル…」

ξ;゚听)ξ「ひっ…」

普通の犬とは明らかに目付きが違う。見るからに凶暴な、それでいて俊敏そうな身体に詰め寄られたツンが怯えて後じさった。

( #^ω^)「ツンに近寄るなお!」

(;´・ω・`)「こらこら、ポチ」

グイッ、とショボンが渾身の力を込めて手綱を引っ張った。犬は唸るのを止め、大人しく足元にうずくまる。

( ^Д^)「人間の速さの3倍で走る、トニー様の恩恵を受けた猟犬です。素早さや命令遂行能力は並の比ではない。
この他にも後、5頭ほどおりますので万が一にも逃がす心配は無いでしょう」

/;3「…いい犬だ」

188CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 19:47:09.88 ID:xIjdNt00O
荒巻が犬の艶やかな毛並みを撫でるのを眺めながら、プギャは咳ばらいをした。

( ^Д^)「いかがでしょうか、この提案は。皆さんの怒りは最もです。ワシも内心の憤怒は隠し切れません」

(#^ω^)「お前の…お前のせいの癖に!!いなかったお!神様なんか、最初からいなかったんだお!!」

( ^Д^)「黙れ!」

余りにも身勝手な言い草に思わず抗議する内藤の腹に、容赦なくプギャの革靴が襲い掛かった。

( ´ω`)「うぐ…」

ξ゚听)ξ「皆、信じてちょうだい…目を覚ましてよ……」

191CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 19:54:11.85 ID:xIjdNt00O
(*゚ー゚)「ありえませんわ」

その美しい顔を怒りのために紅潮させて、しぃが内藤とツンを睨み付けた。

(*゚ー゚)「村長様が嘘を吐いてると?馬鹿馬鹿しい事をおっしゃらないで!」

そうだそうだ!
俺達の村の村長なんだぞ!

少人数制の村は閉鎖的だ。なおかつ、この村はトニー様と村長を中心としてまとまっていた。
余所者に耳を貸す者など、何処にもいなかった。

(´・ω・`)「多数決です。皆さん、目を閉じてください。この提案に賛成の方は手を上げてください」

仕切るショボンにうながされて、皆が戸惑いがちに目を閉じた。
たしかに内藤夫婦は憎い。だが、自分達が一番恐れているのは、『このままトニー様が帰って来ない事』なのだ。

193CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 19:57:56.30 ID:xIjdNt00O
( ^ω^)(ここで殺されるのは免れるかもしれない…
光が見えて来たお…たとえわずかでも、光が…!)



( ^ω^)「……ッ!」



無意識に内藤は強く祈っていた。誰に?

――『神様』に。
その『神』はけして、トニー・ブラウンなんかでは無かったけれど。

チラホラ、チラホラと手が上がっていく。
ショボンが一つ一つそれを数えて、ファイルに正の字を書き込んで行った。

194CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 20:05:11.56 ID:xIjdNt00O
(´・ω・`)「60、61、63…はい、皆さん目を開けてくださって結構です」

ガヤガヤ

ショボンの声に、一同が一斉に目を開け、食い入るようにスーツ姿の秘書を見つめた。

(´・ω・`)「72人中63人の賛成で、名付けて『トニー・ブラウン様を捜し隊』、この提案を可決します」

おおおおッ

どよどよと周りがざわめき始める中、ショボンが夫婦の元に歩み寄った。仔牛用の小さな首輪を、抵抗できない二人の首に通して鍵をかける。
そしてスーツの中から刃渡りの長いナイフを取り出した。

195CATS ◆STRAY/tOkM [sage] :2006/03/26(日) 20:08:34.33 ID:xIjdNt00O
ξ;゚听)ξ「きゃあっ!」

(´・ω・`)「動くな、切れるぞ」

ブツッ、ブツブツッ

ξ゚听)ξ「あ…」

ツンの身体を縛っていた戒めが解けた。ショボンは続いて、内藤を縛るロープを切っていく。

( ^ω^)「あう…」

二人とも身体のダメージが大きくまだ動けない状態だが、もはや、今逃げを試みるのは不可能だと分かっていた。

(´・ω・`)「君たちはいいのかい。まあ、拒否権など存在しないわけだが」

196CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 20:10:14.72 ID:xIjdNt00O
( ^ω^)「……ツンを助けてくれるなら、僕は何でもやるお」

ξ゚听)ξ「ブーン…!」

決意を込めて言う内藤の傷付いた腕を、ツンが掴んだ。

( ^ω^)「約束してくれお。僕がトニー・ブラウンを見つけ出してこの村に戻す事が出来たなら、その時はツンを助けてやって欲しいお。あんたたちの腹が治まらないなら、僕を殺してくれてもいいお」

内藤は一度、言葉を切った。身体の痛みを堪えながらのろのろと起き上がって膝を付き、周りに向かって地面に額がくっつくほどに頭を下げる。

( ^ω^)「お願いしますお…」

繰り出された土下座に、村人たちの間に戸惑いの波紋が広がった。
内藤は泣いていた。

( ;ω;)「お願いしますから、ツンだけは助けてやってくださいお…」

197CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 20:17:21.90 ID:xIjdNt00O
ξ゚听)ξ「ブー…ン…」

呆然とそれを見ていたツンが、キッと内藤を睨み付ける。わなわなとその肩が震え始めた。

ξ゚听)ξ「馬鹿…馬鹿ばっか言ってんじゃないわよ…ッ!“僕が”見付けたら、じゃない!“私たち”が見付けるんでしょうが!」

ここで泣いてはいけない。そんな気がして唇を噛んで堪えようとしたが、声には抑えられない鳴咽が混じる。
村人たちは声なくそれを見ていた。

ξ;凵G)ξ「っく…う…なんでも…かんでも…一人で抱えるから…ッ、あんたはいつも馬鹿って言われんのよぉ…」

198CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 20:21:47.95 ID:xIjdNt00O
( ;ω;)「ツン…」

/ ,'3「ほっほっほ、何とも美しい夫婦愛じゃないか。
いいじゃないか村長、トニー様が見つかれば万々歳、二人とも釈放してやるくらいの器量を見せてやれば」

ξ゚听)ξ「!!」

(; ^Д^)「し、しかし…」

プギャは後ろでざわめく村人一同を眺めた。彼等がそれで満足するだろうか?

/;3「まぁそれはその時決めるとすればいいさ」

荒巻は案外あっさりと退いたので、プギャはホッとしたように息を吐いた。

が。

/ ,'3「ただ、私はトニー様の居ない土地などに長居をするほど暇ではない。三日だ。三日間だけ、待とう」

( ;^ω^)「ッな…!!」

199CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 20:26:27.60 ID:xIjdNt00O
無謀だ。
内藤だけではなく、プギャも困ったような面持ちで荒巻を見ている。

(;^Д^)「三日…とはまた、難しい事を…せめて一週間ほど…」

/;3「三日だ。それ以上もそれ以下も待たん。
三日経って、そう、三日後の夕暮れまでにトニー様が戻らなければ私はこの村から出ていこう。村の発展に関する援助金も一切出さん」

( ;^Д^);・ω・`)「う………」

村とは無関係な立場のはずの荒巻に、なぜか全員が注目していた。荒巻の言葉には一つ一つ重みがあり、有無を言わせない引力が備わっている。
荒巻が小さな鉄道会社を興し、一代で巨額の富を築き上げた秘密がその老練な口ぶりの中に隠されていた。

( ^Д^)「…わかりました」

201CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 20:32:24.17 ID:xIjdNt00O
ξ゚听)ξ「あたしも…あたしも行くわ」

内藤の服裾を握りながら、ツンも強く言い切った。

そうだ。例え希望がうまい棒よりも安くても、それが1%でも残っているなら。
まだ人は生きて行ける。

二人の希望は「子供」だった。
何が何でも、生きなければならなかった。

(´・ω・`)「決定ですね。では皆さん、少しお願いがあります」

ショボンはしばらく二人を黙視していたが、やがて何も無かったように周りを見回し、何人かの住人に指示を始める。
住人たちは少し慌てるもの、それぞれ指示に従って家へと飛び込んで行った。

( ^ω^)ξ゚听)ξ「………」

内藤とツンは、お互いに強く手を結び合わせて夜風が破れた服の隙間から肌を撫でるのをただ感じていた。

202CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 20:41:43.30 ID:xIjdNt00O
20分ほどしただろうか。

(´・ω・`)「どうぞ」

ショボンが二人の前に、大きなデイパックを置いた。

( ^ω^)「…?」

周りに見守られながら、内藤は躊躇いがちにデイパックの中を見る。

携帯用のビスケットと水。
地図にコンパス。簡単な傷薬と包帯。小さなナイフ。それから、マッチと、不思議な形をした棒。

カチッ

(;^ω^)「うッ!」

203CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 20:42:52.99 ID:xIjdNt00O
恐る恐る突起を押すと急に棒の先端から飛び出した光の束に驚き、内藤は棒を取り落とした。

(´・ω・`)「ああ、それはトニー様の作品の一つ、『懐中電灯』と言います。夜道は暗いでしょうから。害はありません」

内藤は懐中電灯を見た事が無かった。

( ^ω^)「地図…」

焚火の明かりに照らして、内藤は薄っぺらい地図を必死で覗き込む。真ん中に村の見取り図があり、東にある森が大きく丸印で囲まれていた。

( ^Д^)「チューボー・フォレスト…。そこがお前達の探索場だ。ただの森ではない、そこには古代の村の廃墟や城跡が眠っている」

(;^ω^)「チューボー・フォレスト…」

ブーンは唸った。村や城を飲み込むほどの森だ。範囲はとんでもなく広い。

204CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 20:51:39.64 ID:xIjdNt00O
( ^Д^)「昔から人喰いニートウルフが出る地でな。トニー様が抑えてくれるまで、ワシらもうかつには近寄れんかった場所だ。
トニー様が無き今、抑制を解かれたニートウルフは再び凶刃を振りかざしてくるだろう」

ニートウルフとは則ち、狼。大型犬の2倍の体躯に潜む強大なパワーと高知能、敏捷性を自在に操り、同時に残忍性をも併せ持つ『孤高の森の帝王』。
都会育ちの内藤達は、無論名前程度しか聞いた事がなかったが。

ξ;゚听)ξ「………そこを、私たちに?」

( ^Д^)「そういうことだ」

あっさりとプギャは言った。
実際、トニーが失踪して以来プギャとショボンが捜していない場所は、地図上ではそこしか残っていなかった。
いや、そこと、“もう一つ”しか。

( ^ω^)「……わかったお」

内藤は頷くしかなかった。
生きるために、希望のために。

205CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 20:56:38.89 ID:xIjdNt00O
……………………。


(´・ω・`)「行きましたね」

ショボンがポツリと呟いた。
「期限は三日。一刻も無駄にしてはいられない」
内藤夫婦がよろめきながらチューボー・フォレストに向かって行った後、広場は散々なものだった。
苛立ちと焦躁を抑え切れずに喧嘩をおっ始める者、訳の分からない不安に怯えて泣き喚く子供をなだめる母親の声や、ヒステリックに錯乱する若い女性とそれを落ち着かせようとする夫。「祟りじゃ、祟りじゃ」と念仏のように繰り返す老母。

/ ,'3「……うるさいな」

不愉快さを全開にして荒巻が吐き捨てた。だがその場を去らない理由は、右腕にしぃの震える肩を抱いているからに外ならない。

209CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 21:11:01.15 ID:xIjdNt00O
ショボンにプギャはそれこそ大変だった。

('д';)「村はどうなるんですか?!」

(;´д`)「トニー様のお怒りは解けるのですか!!」
( ;^Д^)「落ち着け!皆の衆、落ち着くんだ!」

村長であるプギャの一喝も功を奏さない。

荒巻の腕に凭れかかったまま、血の気の失せた顔でしぃが呟いた。

(*゚ー゚)「私たちは…私たちはこれからどうやって暮らして行けばいいの…?」

/ ,'3「………」

荒巻が静かな手つきでしぃの頭を撫でてやるのを、傍に控えているSPこと流石ブラザーズが眺めていた。

(´<_`)「事態が切迫していると言うのに会長はどことなく嬉しそうだな、兄者」

(*´_ゝ`)「ああ、18日に『しすこん☆くえすと』が発売されるのが余程嬉しいんだろうよ、弟者」

(´<_`)「…それは兄者の話だろう」

212CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 21:24:19.55 ID:xIjdNt00O
プギャに悲鳴が集中する一方、ショボンはショボンで詰め寄られていた。

ヽ(`д´)ノシ「もし三日以内にトニー様が見つからなかったらどうなんのよ!」

(;´・ω・`)「や、いや、あの…落ち着いてください美代子さん。まだ、ほら、その…待ってみないとわかんないし」

収拾はつきそうにない。

(;^Д^)
(;´・ω・`)
(111゚ー゚)
/ ,'3「…」

プギャとショボン、否、全員に疲労の色が漂い始めた時だった。

ゴーーーーン…

丘の上の時計台が、夜9時の鐘の音を告げる。
パニックを吸い取るような低いビブラートが掛かった鐘の音を聞いているうちに皆、夕方から飯も食べずにこうしていた事を思い出したのか一様に唇をつぐんでしまった。

( ^Д^)「……皆さん、祈りましょう」

214CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 21:36:44.71 ID:xIjdNt00O
(*゚ー゚)「祈る…」

プギャの言葉にしぃを始め、村人たちが続々とうなだれていた視線を上げる。
まるで暗闇の中で小さな光を見つけた時のように、無数の目それぞれに一瞬生気が灯って行った。

( ^Д^)「そう。トニー様が戻って来て下さるように。神の怒りが解けるように。祈りましょう、我らが神、トニー=ブラウン様に」

プギャが厳かな顔で胸前で指を組んだ。

(´・ω・`)「…」

釣られたように隣にいたショボンが同じ所作を取り、頭を垂れた。

(■ム■)「…」
(*゚ー゚)「…」
(´ー`)「…」
(・А・)「…」

祈りの所作は言葉にせずとも、広がっていく。

( ^Д^)「どうぞ彼等の罪が許されますように。貴方のお怒りが解けますように。………びっくりするほどユートピア」


「「びっくりするほどユートピア」」

70人余りの声が夜の空気を震わせて和した。

/ ,'3「……」

荒巻は黙って、それを見ていた。

215CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 21:44:56.09 ID:xIjdNt00O
―森―

バササッ
木々を揺らして頭上を飛んでいくのは鳥か、ムササビか。

めらめらと燃える小さな焚火だけが、真っ暗な森の一角を薄ぼんやりと照らし出していた。

( ^ω^)「はぁ…はぁ…」

ξ゚听)ξ「……」

太い大木に背に凭れさせ、ツンと内藤は足を投げ出している。ツンの傷ついた細い手足には、下手くそな応急処置が施されていた。

ξ゚听)ξ「ブーン…」

ぼんやりと火を眺めていたツンが、小さく笑った。

ξ゚听)ξ「よかった、ね」

216CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 21:53:53.27 ID:xIjdNt00O
その笑みは、彼女にしてはひどく柔らかかった。

( ^ω^)「…ん、」

内藤も笑みを浮かべる。

( ^ω^)「よかったお」
ξ゚听)ξ「…ふふ」


二人は顔を見合わせて、微笑み合った。

トクン…トクン…

汚れた二つの手は、ツンの腹部の上に重なっている。
そう、確かな心音を放ち続ける腹部の上に。

ツンが内藤の肩に、頭を凭れさせた。その瞼が重そうに垂れていった。
無理もない。身重の体で、あんな目にあったのだ。

( ^ω^)「ツン、寝ていいお。火が消えないように僕が見ておくから大丈夫だお」

獣避けを兼ねた炎が尽きないように集めた枯れ枝を投げながら、内藤がそう囁いた。

217CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 22:04:39.40 ID:xIjdNt00O
ξ゚听)ξ「ごめん…少し休んだら、代わるから」

遠慮する気力も今のツンには残っていないようで、ずるずると睡魔に引きずられていく様子が見つめている内藤にも分かった。

( ^ω^)「気にしなくていいお。ゆっくり休むお」

ぎゅ、と肩を抱き寄せて体温を分け合いながら内藤はまた枝を投げ込む。

ξ*--)ξ「…………」

パチパチと枝がはぜる音に、ツンの寝息が混じり始める。

(111^ω^)「………ジェイソンが出てきそうだお」

いかにもオカルトな雰囲気を醸し出す森の中、ともすれば震えそうになるのを堪えて内藤は重い瞼を必死で上げる。

内藤は大人しい性格だった。
喧嘩などは金を貰ってもごめんだし、この年でこの世で一番怖いのはお化けだと思っていたりする。

219CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 22:17:52.72 ID:xIjdNt00O
気が緩んだ瞬間に、今まで成りを潜めていた『弱い内藤』が頭をもたげてくる。

どうしてあんな村に来てしまったんだろう?
どうして自分達だけが?
どうして?
どうして?
どうして?

( ´ω`)「……」

カクリ、と首を垂れると視界にツンの寝顔が飛び込んでくる。
そっと頬に触れようとした時だった。

ξ*--)ξ「ブーン…」

( ^ω^)「…?」

221CATS ◆STRAY/tOkM :2006/03/26(日) 22:20:27.63 ID:xIjdNt00O
もぞもぞとツンが身じろぎ、うっすらと瞼を開けた。寝ぼけているのか焦点の合わない瞳の中に真っ直ぐに内藤を映し込み、笑顔を見せる。

ξ*゚ー゚)ξ「…生きようね。三人で」

( ^ω^)「……当たり前だお」

内藤はそれしか言えずにツンを抱きしめた。ツンの瞼がまた下りていく。

( ^ω^)「…ッ!」

爪の先で傷口をえぐって、眠気を飛ばす。火が消えたら自分達は終わりだろう。

( ^ω^)「…頑張るお」
血の付着した指をズボンで拭うと、『弱い内藤』も消えて行ったような心地がした。

オレンジの炎は小さいながら絶えずに燃え続ける。

二人が見つめているのは「どう死ぬか」ではない。
「どう生きるか」だ。

228CATS ◆STRAY/tOkM  :2006/03/26(日) 22:45:12.17 ID:xIjdNt00O
ξ*--)ξ「すー……」

(*;ー;)「トニー様………」

(´・ω・`)「………テラネムス」

(lll´ー`)「あー俺ほんと鍵どこにやったんだろ…あ、ヤベ、エロゲ返してないや」

(*´_ゝ`)「『しすこん☆くえすと』の初回特典には小百合たんの入浴DVDが入ってるんだぞ」
(´<_`)「早く永眠しろ、兄者」

/ ,'3「〜♪」

( ^Д^)「……これでいい、これでいいのだ……」


( ^ω^)「…負けないお」

それぞれの思惑が夜に連なり、溶けて弾けてまた朝が生まれる。



【第4部完】

第5部
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