52 ◆bsKbvbM/2c :2006/03/19(日) 20:57:57.97 ID:GvI/93yC0
【荒巻の手紙2】

/ ,' 3『次回作品の出演者諸君。

    質問を受け付ける気は無いので、電話ではなく手紙にした。
    君たちは今、戸惑っていることと思う。
    今回は、君たちの舞台稽古としてここに集まってもらった』

('A`)「舞台稽古?」

/ ,' 3『先日のオーディション後にも言ったが、次回作品の台本はまだ完成していない。
    決まっているのは、推理劇だということ、舞台設定、登場人物、
    それから大まかなストーリーだけなのだ。

    細部はこれから、君たち自身の手で作りあげてもらいたいのだ。
    この意味は徐々に分かっていくと思う。

    さて、ここで君たちの状況を説明しよう。』

53 ◆bsKbvbM/2c :2006/03/19(日) 21:08:45.67 ID:GvI/93yC0
/ ,' 3『君たちが今いるのは、人里離れた山奥の山荘だ。
    実際は最寄のバス停まで徒歩圏内だが、そんなものはないと思って欲しい。

    君たちは、そんな山荘にやってきた7人の客だ。
    関係は現実どおり、同じ芝居に出る若き役者たちだ。
    山荘に来た理由はなんでもいい。気分転換でも、役作りの合宿でも、各自好きに設定してくれ。

    7人の客は、記録的な大雪に遭う。外との行き来は完全に不可能な状態だ。
    雪の重みで電話線も切れ、山奥の山荘では携帯電話の電波も届かない。
    ペンションのオーナーも買い物に行ったきり帰ってこない。
    君たちはやむを得ず、自分たちで食事を作り湯を沸かし、救助を待つことにする。
    だが依然として雪は降り続き、救助は来ない――これが、君たちの置かれた状況と思って欲しい』

(*‘ω‘ *)「なんだか、使い古された設定だねー」

(´・ω・`)「僕は好きだけどね、こういうの」

/ ,' 3『この状況の中で、今後起こる出来事に対処していって欲しいのだ。
    そしてその時の心の動きや対応の仕方などを、出来うる限り克明に記憶して欲しい。

    それがすべて、作品となるのだ。脚本や演出に、大きく反映されるのだ』

54 ◆bsKbvbM/2c :2006/03/19(日) 21:20:06.27 ID:GvI/93yC0
川 ゚ -゚)「『次回作を成功させる為、全力でがんばってもらいたい。健闘を祈る』……だそうだ」

クーさんはそこで言葉を切った。

実感はあまり持てないが、つまり僕たちは4日間、
ここで台本の無い劇を演じろと言うことだろうか。

( ゚∀゚)「相変わらずむちゃくちゃだな、荒巻先生は」

はー、とジョルジュは大げさに溜息を吐いたが、苦笑している。
多分、荒巻先生のむちゃくちゃな行動にも慣れてるんだろう。

(;^ω^)「……本当に変な人だお、荒巻先生って」

ξ゚听)ξ「手紙、続きがあるんじゃない?荒巻先生はいつも『以上 荒巻スカルチノフ』で手紙を終えるわ」

ツンがそう言うと、クーさんはもう一枚便箋があることに気がついた。

/ ,' 3『追伸 実際には電話は使用可能だ。何かあった場合は、ギコ氏か私に連絡すること。
    ただし、電話を仕様したり、外出して他の人間と接触を持った場合、この試験は即刻中止する。
    オーディション合格も取り消す。以上 荒巻スカルチノフ』

56 ◆bsKbvbM/2c :2006/03/19(日) 21:30:49.11 ID:GvI/93yC0
クーさんはしばらく封筒や便箋を調べた後、

川 ゚ -゚)「書いてあることは以上だ」

そう言った。
何だか信じられない僕は手紙を受け取って、手紙を読み直す。
一字一句、クーさんが言ったことと同じだった。

( ^ω^)「これって、芝居そのものを僕たちがつくるってことかお」

(*‘ω‘ *)「先生らしいと言えば、らしいね」

('A`)「けど今回は異常だろ。こんなことなら稽古場でもできる」

ξ゚听)ξ「稽古場じゃふいんきryでないんじゃないかしら。私はおもしろいと思うけど」

( ゚∀゚)「ああ、俺もおもしろいと思うぜ。こんなの現実じゃなかなか体験できない」

やっぱり、みんなは荒巻先生の行動にも慣れているみたいで、もうやる気になっていた。

(´・ω・`)「ある閉ざされた雪の山荘で……ってところか」

青く澄み切った空を見上げながら、ショボーンが言った。

60 ◆bsKbvbM/2c :2006/03/19(日) 21:50:44.55 ID:GvI/93yC0
( ^ω^)「……なんだお、これ」

ふと、僕はあることに気がついた。
今まで気がつかなかったけど、落ち着いてラウンジを見回すと本棚が周りから浮いているのだ。
正確に言うと、本棚が、ではなく、本棚に並べられた本が、だ。

(´・ω・`)「どうかしたのかい」

( ^ω^)「これを見るお。多分、荒巻先生の指示で用意されたものだお」

僕が言うと、全員が本棚を見て驚いた。
そこには3種類の本が7冊ずつ、全部で21冊の新品の本が綺麗に並べられているのだった。
僕はそのうちの一冊を手に取る。読まれた形跡は無い、やっぱり新品だ。

( ^ω^)「『そして誰もいなくなった』……」

( ゚∀゚)「『グリーン家殺人事件』に、『Yの悲劇』か。嫌な感じだな」

(*‘ω‘ *)「どういう話ぽっぽ?」

( ゚∀゚)「ぜんぶ、次々に人が殺される話だぜ。しかし新品の本が7冊ずつってことは……」
64 ◆bsKbvbM/2c :2006/03/19(日) 22:03:16.78 ID:GvI/93yC0
川 ゚ -゚)「私たちに読めってことだろうな。悪戯にしては趣味が悪いが」

クーさんが言って、嫌な空気が流れた。
しばらくの沈黙が続いた後、ツンが本棚から3冊取って横の長椅子に腰掛けた。

ξ゚听)ξ「私は読むわ。次に会った時、感想でも求められたら困るもの」

( ^ω^)「それもそうだお」

(´・ω・`)「多分、メッセージだと思うけどね。さっき手紙に書いてあった、”今後起こる出来事”とやらの」

そう言ってショボーンも本を抜きとった。続いて、ジョルジュも手にとって、結局全員が本を読むことになった。

('A`)「しかし、推理劇なんだろ、次回作は」

('A`)「それでこんな本を読めって事は、ここで殺人でも起こるのか?」

ぱらぱらと本のページをめくりながらドクオがつぶやいた。
その声に、壁に体を預けてグリーン家殺人事件を読み始めたクーが顔を上げる。

川 ゚ -゚)「何かが起こるとして、それは一体誰が起こすんだ?ここには、私たちしかいないのに」

69 ◆bsKbvbM/2c :2006/03/19(日) 22:12:04.59 ID:GvI/93yC0
クーさんの言うとおりだった。
僕たちはギコとともにこのペンションの全ての部屋を見て回ったけど、
僕たち以外の人は誰もいなかったし、誰かがいる気配も無かった。

('A`)「……誰かが隠れてるか、この中に全部知ってる犯人役がいるかのどっちかしか、ないだろ」

(´・ω・`)「荒巻先生は、出演者は僕らだけだと言ってたから、前者は無いんじゃないかな」

川 ゚ -゚)「荒巻先生がオーディション前からこのことを計画していたなら、それを隠しているだけかもしれない」

ξ゚听)ξ「……やめてよ。どっちもいやだわ、そんなの」

うつむいたまま、ツンが言った。表情は隠れて見えないけど、声が少し震えてる。

ξ゚听)ξ「誰か知らない人が隠れてるかもしれないなんて、怖いこと言わないで」

ξ゚听)ξ「この中の誰かが、荒巻先生と通じて私たちをだましてるなんて、もっと嫌だわ」

(;^ω^)「……そ、そうだお。それに僕たちは、ただの客のはずだお」

僕は苦し紛れにツンに助け舟を出した。
70 ◆bsKbvbM/2c :2006/03/19(日) 22:19:16.60 ID:GvI/93yC0
( ^ω^)「僕たちはただの客で、雪が止むのを待っているだけのはずだお」

( ^ω^)「これから何が起こるとか、考えるのはおかしいお」

ξ゚听)ξ「内藤……」

ツンが顔を上げて僕を見た。やっぱりかわいいお……
('A`)「それもそうだな」

(´・ω・`)「ああ。内藤の言うとおりだね」

苦し紛れのフォローはどうやら大成功だったらしく、
クーさんやショボーンたちも納得してその話題を終了した。
そして、また本のページをめくる音だけしか聞こえなくなる。

(*‘ω‘ *)「ねーみんな、それよりお腹減らない? 本はいつだって読めるしさ」

……そういえば、もう夜ご飯にしてもいい時間だ。
ちんぽっぽが提案して、僕たちは食事当番をくじびきで決めることになった。
今夜の係りは、僕とジョルジュ、そしてツン。

72 ◆bsKbvbM/2c :2006/03/19(日) 22:30:36.50 ID:GvI/93yC0
(*‘ω‘ *)「ねえ、今日のメニューは何ぽっぽ?」

食事の準備をしていると、厨房の扉から顔をのぞかせたちんぽっぽが聞いてきた。
よほど空腹らしい。
ジョルジュが他のみんなにも聞こえるような声で、今晩のメニューを知らせる。

( ゚∀゚)「カレーだ、カレー」

まだルーを入れていないので、香りではメニューが判らないのだ。
するとちんぽっぽの奥からドクオの声が聞こえてきた。

('A`)「まるで子供の林間学校だな」

ξ゚听)ξ「文句があるなら食べなくていいわよ。

ξ゚听)ξ「けどね、私たちは雪で閉ざされた山荘にいるんだから、贅沢は言ってられないってことを忘れないで」

(;'A`)「わ、悪かったよ……食うよ、食わせてくれ。だから怒るな」

……ちょっとだけ、いい気味だと思った。

73 ◆bsKbvbM/2c :2006/03/19(日) 22:38:39.04 ID:GvI/93yC0
しばらくして、カレーが完成した。
ジョルジュは厨房でカレーを皿に盛って、僕とツンは食堂の一番大きなテーブルをセッティングする。

ξ゚听)ξ「……あの、内藤」

( ^ω^)「何だお?」

テーブルを拭いている間、ツンが話しかけてきた。

ξ*゚听)ξ「さっきは、ありがと……」

( ^ω^)「え?よく聞こえなかったお」

ξ////)ξ「なんでもないわよ!」

……ツンはそう言って厨房に戻ってしまった。
ありがと、って言ったように聞こえたけど……さっきのお礼だったのかな?
お礼を言われるようなことじゃないんだけどな。
そんなことを考えてると、厨房からワゴンを押したジョルジュと、その後ろからツンが出てきた。

( ^ω^)「ご飯できたおー」
80 ◆bsKbvbM/2c :2006/03/19(日) 22:51:10.36 ID:GvI/93yC0
ξ゚听)ξ「いただきます」

(*‘ω‘ *)「ぽっぽ」

( ^ω^)「いただきますお」

川 ゚ -゚)「……いただきます」

(*'A`)「いただきます(ツンの手料理ktkr)」

(´・ω・`)「いただこう」

ジョルジュは言わずにもう食べていた。
クーさんが辛いものは苦手らしいので、カレーは食べやすい程度の辛味に抑えてある。
それでもクーさんは水をごくごく飲みながら食べているけど。

('A`)「でもよ、食事当番ってずっとこの組み合わせなのか?」

86 ◆bsKbvbM/2c :2006/03/19(日) 23:08:50.15 ID:GvI/93yC0
川 ゚ -゚)「ああ。そうでないと当番の回数が平等じゃなくなる」

クーさんは、どうしてドクオがそんなことを言うのかわからないようだった。
でも僕はすぐわかった。
簡単な理由だ。ドクオは、ツンと当番になりたいだけなんだ。

('A`)「……さっきの話、もう忘れたのかよ? 次回作は推理劇なんだから、人が減る確立は高いと思うぜ」

ドクオは少し考えたあと、もっともらしい理由を言った。

( ^ω^)「さっきも言ったお。今からそれを考えるのは、やっぱりおかしいお」

(´・ω・`)「ああ。僕らは役者なんだ。そして僕らに与えられたのは、山荘に閉じ込められた客だ」

(´・ω・`)「なりきらなくてはね。不安でカレーも喉を通らないかもしれない、そんな演技をしなくては」

ショボーンの口ぶりは、少しからかっているように聞こえた。

('A`)「……それもそうだな」

( ゚∀゚)「じゃあ俺はおかわりするぜ。いつ救助が来るともわからないんだ、力を蓄えておかないとな」

(*‘ω‘ *)「あたしもー」

夕食は平和だった。


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第4話目